近年、日本国内において有機農業への関心が着実に高まっています。有機農業とは、化学合成農薬や化学肥料の使用を極力避け、環境への負荷を低減しながら持続可能な農業を目指す生産方法です。これまで日本では、気候条件や労力面の制約から有機農業の普及は限定的とされてきましたが、ここ数年で取り組み面積が増加傾向に転じています。
背景には、環境問題への意識の高まりや食の安全・安心を重視する消費者ニーズの変化があります。また、国が農業政策の柱として有機農業を位置づけ、明確な数値目標を掲げたことも大きな転換点となっています。
日本国内の有機農業取組面積の現状


日本国内の有機農業取組面積は増大傾向にあります。たとえば、農林水産省が令和6(2024)年9月に公開した「みどりの食料システム戦略に基づく取組の進捗状況」では、その取組面積が3.03万haに拡大(対前年比で約3,700haの増加)と報告されています。令和7(2025)年10月に公開された「有機農業をめぐる事情」では、有機JAS認証を取得している農地と有機JAS認証を取得してないが、有機農業が⾏われている農地を合わせて3.45万haとなっています。
なお、有機農業の取組面積である3.45万haは、全耕地面積の0.8%に相当し、割合としては依然として低水準ではありますが、10年前と比較すると、有機JAS認証所得面積においては120%の増加、有機農業取組面積では69%増加しています。特に2022年度以降は増加ペースが加速しています。
内訳を見ると、牧草地や普通畑を中心に有機JAS認証を取得した農地が増加しており、とくに畜産と結びついた牧草地の拡大が全体を押し上げる要因となっています。加えて、前述した資料「有機農業をめぐる事情」に記載されている“有機JAS認証を取得していないが、有機農業が行われている農地”が一定数存在していることも重要なポイントです。
有機食品の市場規模も拡大しており、2022年時点で約2,240億円と推定されています。学校給食や外食産業での採用、直売所や宅配サービスの普及などが、需要の下支えとなっています。
国が掲げる方針と「みどりの食料システム戦略」
有機農業の拡大を後押ししている最大の要因が、国の農業政策です。政府は「みどりの食料システム戦略」において、2050年までに有機農業の取り組み面積を全耕地面積の25%、約100万haまで拡大するという極めて野心的な目標を掲げています。
この戦略では、環境負荷の低減と食料生産の持続性を両立させることが重視されており、有機農業はその象徴的な取り組みと位置づけられています。具体的には、有機農業への転換を支援する補助金や交付金の拡充、技術開発の促進、流通・販売体制の整備などが進められています。
また、地域単位で有機農業を推進する「オーガニックビレッジ」の形成も進展しており、2024年時点で全国129市町村にまで広がっています。生産から消費までを地域内で循環させる取り組みは、有機農業の定着に向けた重要な基盤となっています。
有機農業拡大に立ちはだかる今後の課題
一方で、有機農業のさらなる拡大には多くの課題も存在します。最も大きな課題として挙げられるのが、労働力不足と作業負担の大きさです。有機農業では化学合成農薬に頼れないため、除草や病害虫防除に多くの人手と時間が必要となります。高齢化が進む農業現場において、この負担は新規参入や転換の大きな障壁となっています。
また、日本特有の高温多湿な気候は、雑草や病害虫の発生を助長しやすく、有機栽培では収量や品質が不安定になりがちです。技術的なノウハウの蓄積や、地域ごとの適応技術の確立が不可欠といえます。
さらに、有機JAS認証の取得や更新にかかるコストも課題です。小規模農家にとっては、認証に伴う事務負担や費用が重くのしかかり、実質的な有機農業を行っていても認証を取得しないケースが少なくありません。消費者への信頼性確保と、生産者負担の軽減をいかに両立させるかが問われています。
需要面でも、供給拡大に見合った安定的な販路の確保が求められています。価格が高くなりやすい有機農産物を、どのように日常的な消費につなげていくかは、今後の大きなテーマです。
世界との比較


世界と比較すると、日本の有機農業の割合は依然として低い水準にあります。FiBL(スイス有機農業研究所)とIFOAM(1972年にパリ近郊で設立された国際有機農業運動連盟)から発表されている統計年鑑「The World of Organic Agriculture」の2025年版によると、2023年の世界の有機農業の栽培面積は9,890万haです。有機農業が行われている農地は、世界の農地の2.1%を占めています。
なお、欧州連合では、農地全体に占める有機栽培の割合は10.9%です。欧州では、環境政策と農業政策が強く結びついており、有機農業が地域振興や環境保全の中核として位置づけられています。
一方、日本では長らく収量重視の農業が主流であったことから、有機農業への転換が進みにくい構造があります。とはいえ、日本においても政策転換と消費者意識の変化により、全耕地面積における有機農業が占める割合には変化が生じています。
現状の増加ペースのままでは、国の農業政策(「みどりの食料システム戦略」)が掲げる、「2025年に有機農業の取り組み面積を全耕地面積の25%まで拡大」という目標達成は困難とされていますが、技術革新や制度設計次第では、大きな飛躍も期待されています。
おわりに


日本の有機農業は、まだ発展途上にあるものの、拡大の局面に入っているといえます。もちろん、労働力や技術、コスト、需要といった課題は依然として重く、単なる理念だけでは持続しません。有機農業を特別なものではなく、日本の農業の一つの標準として根付かせていくための、現実的かつ総合的な取り組みが求められています。
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