新たな農業の形!?海水を使った農業とは

新たな農業の形!?海水を使った農業とは

近年、世界的な水資源のひっ迫や塩害が広がる農地の増加を背景に、海水を使った農業技術が注目されています。水不足や塩害の進行などを受け、淡水以外の水資源を活用する必要性が高まっています。そこで海水や塩水を活用し、これまで農業には不向きだった環境でも作物を栽培する試みが進んでいます。

 

 

海水を使った農業とは

新たな農業の形!?海水を使った農業とは|画像1

 

文面通り、海水を灌漑や栽培資源として活用する農業技術です。海水には植物の生育に必要な元素の多くが含まれている一方で、塩分(NaCl)が高濃度で含まれており、ほとんどの作物にとっては塩害の原因になります。そのため、海水をそのまま用いるだけでは栽培が困難です。そこで注目されているのが、耐塩性の高い植物の栽培や、海水を希釈・調整して利用する方法などです。

海水利用が注目される理由

水資源が豊富な日本において、海水利用の話題があがるのはなぜ?と思われるかもしれませんが、背景にあるのは近年の異常気象の影響です。異常気象の影響により、海面の水位が上昇しつつあります。そうなると、海水が沿岸の土壌や河川、井戸に侵入しやすくなり、土壌中の塩分濃度が上昇し、塩害が発生する恐れがあります。実際、海水の侵入によって、野菜や花などの栽培が困難になってしまった場所もあるようです。

そこで、耐塩性の高い作物や適切な栽培技術を用いて海水を利用した農業を行うことができれば、塩害や塩分蓄積によって農業が困難になった土地でも、新たに農地として利用できる可能性があります。塩害対策と組み合わせることで、従来は放棄されていた土地の再活用にもつながります。

また、海水は純粋に地球上の水の97%以上を占めており、高い塩分濃度を除けば、植物に必要な成分を多く含んでいることから、うまく活用できれば農業へのメリットは大きいです。農業で消費される膨大な淡水資源を節約できるだけでなく、貴重な淡水資源を他の用途(飲料水や工業用水など)に回すことができるため、特に水不足が深刻な地域では大きな利点になります。

海水利用の課題

まず、現段階では耐塩性の高い作物や海水に適応できる作物が栽培の中心であり、栽培可能な作物の範囲はまだまだ限定的なのが現状です。

そもそも、従来の農業に海水が利用されてこなかったことからも分かる通り、塩分が多く含まれる海水をそのまま用いて、一般的な農作物を栽培することはできません。高濃度の塩分は根の機能を損ない、生育阻害や枯死の原因となります。

したがって、海水農業では海水の希釈や土壌改良、植物の特殊な根の発達を促す技術など、専門的な対策が不可欠です。しかし、塩分調整や栽培システムの開発にコストがかかる場合があります。また、大規模な展開にはインフラや専門知識の整備が必要になります。

海水を活用した農業の事例

国内外では海水を活用した栽培の研究が行われています。たとえば、三重県のベンチャー企業では、一定の割合で希釈した海水を利用してトマトを栽培しています。トマトは世界的にも生産量が多い一方で、大量の水を必要とする作物です。海水をある程度希釈する必要はあるものの、海水を利用して世界的にも需要が高いトマトを育てることができれば、乾燥値や沿岸部など、従来は栽培が難しかった場所でも栽培の可能性が広がると期待されています。

アクアポニックスと呼ばれる農法の研究も進められています。アクアポニックス(Aquaponics)とは、魚の養殖(Aquaculture)と野菜の水耕栽培(Hydroponics)を融合させた環境循環型の農法です。水の循環がベースとなっており、魚の排泄物を微生物が分解し、植物の栄養として吸収・浄化された水が再び魚の飼育水槽に戻る仕組みです。節水・無農薬・無化学肥料で食料を同時生産できる持続可能なシステムとして注目されています。

とはいえ、一般的なアクアポニックスは真水で行うことが多く、海水を用いた場合、一般的なアクアポニックスで栽培されるレタスやバジルのような野菜では、塩分の影響で水分が調整できず、枯れやすいのが課題となっています。そのため、現段階では海水そのものを利用するのではなく、人工海水を3〜3.5%程度の塩分濃度で用いる例があります。

海水そのものの利用にはまだまだ課題はあるものの、岡山市の工業高校で行われた教育・実証プロジェクトでは、海水魚も淡水魚も育てることができる「好適環境水」を用いることで、海水魚と植物の同時生産を可能にする仕組みを構築。アクアポニックスの専門企業である株式会社アクポニが行う実証実験では、魚ではなく出荷までの期間が短いバナメイエビを、植物側は塩生植物や海藻を扱うことで食糧生産モデルをつくろうとしています。

そのほか、有明海周辺では地域資源を活かした伝統的栽培方法を応用して、ミカンやサツマイモなどの栽培に海水を利用した事例もあります。古くから干潟の土を活用した農法があり、それを応用して海水を栽培に直接使用する試みが行われました。海水のミネラル成分を適量取り入れることで、味や品質の向上を目指した取り組みです。ちょうどいい塩分濃度を見極めるまで、植物の変化を細かに観察し、塩分濃度が高い時には真水で薄めるなど、幾度となく調整を繰り返した結果、活用に成功しています。

 

 

未来の農業としての可能性

新たな農業の形!?海水を使った農業とは|画像2

 

水不足や塩害という課題が深刻化する中で、海水や塩分の多い土地を有効活用できる可能性は大きく、持続可能な農業の選択肢として注目されています。現在は栽培できる作物の種類や技術面での課題がありますが、研究開発や実証実験が進むことで、今後さらに適用範囲が広がることが期待されます。

海水を利用する農業には、資源を循環させる新たな農業の形として、世界の食料生産のあり方を変える可能性が感じられます。

 

参照サイト

 

コラムカテゴリの最新記事