農作業中の熱中症対策。命を守る“備え”と“仕組み”について

農作業中の熱中症対策。命を守る“備え”と“仕組み”について

夏は、作物にとっても人にとっても過酷な季節です。特に、屋外で長時間体を動かす農業従事者にとって、熱中症は命に関わる重大なリスクです。なお、熱中症は気温が高い日だけでなく、湿度が高い日、風が弱い日、あるいは朝や夕方でも発生します。

農林水産省(令和5年)によると、農作業に伴う死亡事故のうち65歳以上が202人で全体の85.6%を占めています。熱中症による死亡は特に高齢者で多く見られます。しかし近年では若い世代にも熱中症のリスクが高まっており、「自分は大丈夫」という油断が重症化の一因になるケースも少なくありません。

そこで本記事では、農業従事者が知っておくべき熱中症の特徴や日常的にできる予防策、さらには最近注目されているウェアラブル機器や熱中症警告システムの活用方法まで、ご紹介していきます。日々の農作業を安全に続けるための参考にしていただけると幸いです。

 

 

農業における熱中症の特徴と症状

農作業中の熱中症対策。命を守る“備え”と“仕組み”について|画像1

 

農業現場では、気温や湿度だけでなく、直射日光、風通しの悪さ、地面からの照り返しなど、複数の要因が重なりやすく、熱中症の発症リスクが非常に高いと言われています。

また、気温30℃以下でも発症の可能性はあります。特にビニールハウス内や水田のような湿度の高い場所では、体内の熱が逃げにくくなり、症状が進行しやすくなります。なお、熱中症に特に注意すべき時間帯は午前11時〜午後2時です。この時間帯は気温や日差しが最も強く高リスクの時間帯です。ただし、湿度や風の弱さ、ハウス内環境、体の暑熱順化の有無によっては、朝夕や気温が比較的低い日でも発症します。曇りの日でも油断できません。

熱中症の主な症状は以下の通り。

初期症状:めまい、立ちくらみ、大量の汗、筋肉のこむら返り
中等症状:頭痛、吐き気、倦怠感(だるさ)、集中力の低下
重症:意識障害、けいれん、体温上昇(40℃以上)、呼びかけへの反応が鈍い

熱中症は、症状が出てからでは対処が難しいこともあります。特に作業に集中していると、「だるさ」「めまい」「頭がぼーっとする」などの初期サインを見逃してしまいがちです。
そのまま作業を続けると、吐き気・けいれん・意識消失といった重篤な症状へ進行する恐れがあります。

重症になる前に気づけるかどうかが、生死を分けることもあります。特に単独作業では異変に気づきにくいため、予防が最大の対策となります。自分自身の体調の変化に敏感になることのほか、詳細は後述しますが、なるべく単独作業は行わず、周囲の仲間と声をかけ合うことが大切です。

 

 

個人レベルでできる予防策

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以下のような基本的な対策を日常的に意識することが熱中症予防には重要です。

1.作業前・作業中のこまめな水分と塩分の補給

「のどが渇いた」と感じる前に、意識的な水分摂取が必要です。のどが渇く前に、20分おきに、毎回コップ1~2杯(約150~200ml)の水分と塩分の補給が望ましいとされています。または労働強度が高ければ更に頻回に補給することが推奨されます。大量に汗をかく場合はスポーツドリンクや経口補水液等で塩分を補います。汗と一緒に失われる塩分を補うために塩タブレットや梅干しなどを携帯しておくと安心です。

2. 作業時間の工夫とこまめな休憩

日中の気温が高い時間帯(午前11時〜午後2時頃)は、作業を軽くしたり休憩を多めに取ったりします。そして、できるだけ朝6時〜10時・夕方4時以降など、気温が低い時間帯に作業を集中させます。

また作業が長時間に及ぶ場合は、1時間に1回は日陰で5〜10分の休憩を取ることが推奨されています。休憩時には日陰・風通しのよい場所で休み、木陰や簡易テント、扇風機やスポットクーラーの設置も有効です。特にハウス内で作業を行う際は、換気や送風を常に意識することが大切です。

3. 通気性・吸湿性に優れた作業着の着用

速乾性・通気性のある素材を選ぶことで、体温上昇を抑えることができます。最近では、遮熱素材・冷感機能つきの作業着も市販されているので、機能性のある作業着や帽子、アームカバーなどの使用が効果的です。

4.組織的・家族単位での対策

「熱中症の特徴と症状」で前述した通り、単独作業では異変に気づきにくいことから、組織的・家族単位で対策を行うことが推奨されます。誰かが誰かを気にかける体制をつくることで体調の変化に気づきやすくなります。

単独作業を行わざるを得ない場合も「1時間おきに声かけをする」「昼には必ず連絡を入れる」などのルールを設けることで、体調に異変が生じた際の早期対応が可能になります。

また畑やハウスなどでは携帯の電波が届きにくい場所もあるため、連絡手段を確保すること(携帯・トランシーバー・簡易Wi-Fiルーターなど)も、取り組むべき熱中症対策です。

 

 

あると便利!熱中症対策機器

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近年では、農業現場に適した熱中症対策機器も続々と登場しています。これらの機器は、自分自身の状態や周囲の環境を「見える化」することで、より的確な判断を助けてくれます。

たとえば、熱中症対策機器としてウェアラブル型体温・脈拍センサーがあげられます。これは腕や胸に装着するだけで、体温・脈拍・発汗量などをリアルタイムで計測できる機器です。センサーによって高温下での身体状況を評価し、体調変化を早期に捉えます。商品によっては、異常値が出た場合にアラームが鳴るなど、無理せず休憩を取るきっかけが生まれます。

ただし、ウェアラブルセンサーは個人差や計測誤差、アルゴリズムの限界があるため、あくまで補助ツールとして活用することをおすすめします。

また、WBGT(暑さ指数)を算出してくれる簡易計測器もおすすめです。ハウス内や倉庫、作業小屋などに設置することで、「ここで今、作業しても大丈夫か?」を即座に判断できます。なお、農林水産省の資料によると、WBGTが28℃を超えると「厳重警戒」、31℃を超えると「危険」とされています。

そのほか、上記WBGTや体調データを共有できるスマホ連携アプリなどもあります。離れた場所にいる家族や同業者と情報を共有できることから、万一のときの早期対応に役立ちます。
厳しい暑さに備える

近年の猛暑は過去とは次元が異なり、身体への負担は想像以上に深刻です。とはいえ、正しい知識と備えが、熱中症を未然に防ぐことにつながります。

まずは、自分の体調を最優先にすること。そして、こまめな水分・塩分補給、服装の工夫、休憩時間の確保など、日常の行動から対策を始めてください。熱中症予防に役立つ機器やテクノロジーの導入も視野に入れることもおすすめです。

 

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