作物の健全な生育には、窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)を中心とした肥料の適切な管理が欠かせません。その中でもカリウムは、細胞の水分調節、光合成の活性化、根の伸長や果実の肥大など、多くの生理機能に関与しています。
しかし、「多ければよい」という考えでカリウムを過剰に施すと、かえって作物の生育を妨げることがあります。
その原因のひとつが「拮抗作用」と呼ばれる栄養素どうしのバランスの問題です。特に、カルシウムやマグネシウムの吸収を妨げてしまうという点には注意が必要です。
そこで本記事では、栄養成分の拮抗関係について紹介していきます。
拮抗関係とは?
植物が必要とする養分は、バランスが重要です。どれか一つが多すぎたり少なすぎたりすると、他の養分の吸収に影響を与えることがあります。
作物が根から養分を吸収する際、ある栄養素の過剰が、他の栄養素の吸収を妨げることがあります。これが養分の拮抗関係です。
特にカリウムは、マグネシウムやカルシウムと拮抗しやすい性質を持ちます。これらはいずれも陽イオン(+の電荷を持つ)であり、根から吸収される際に、同じ吸収経路を奪い合うために競合します。そのため、カリウムが多すぎるとマグネシウムやカルシウムの吸収率が落ちます。
症状としてよく見られるのがカリウム過剰によって生じるマグネシウム欠乏です。マグネシウムは葉緑素の中心成分であり、不足すると葉が黄化し、光合成能力が低下します。これはとくに果菜類や根菜類で顕著に現れます。
また、カリウム過多によってカルシウムの吸収が阻害されると、果実の「尻腐れ症」や「内部褐変」、葉先の枯れ(チップバーン)などが発生しやすくなります。
作物別の症状例
作物の種類によって、栄養バランスが崩れたことの表れ方は異なります。以下に示すのは代表的な症状の例です。ただし症状の出方は環境(灌水・温度・生育速度)や土壌条件でも大きく変わります。栄養状態の確認や施肥は、代表的な症状の例だけで判断せず、圃場ごとの土壌・葉面分析で確認するようにしてください。
トマト
トマトはカルシウムの移動性が低いため、カルシウムの吸収がわずかに落ちただけでも果実の先端に「尻腐れ症状」が出ます。この際、葉の色や茎の太さは良好なのに、果実に問題が生じることがあります。
ナス
ナスは多肥に反応しやすい特徴があります。カリウム過剰になると草勢ばかりが旺盛になり、果実の締まりや味が悪くなることがあります。果実の曲がりや収穫遅れも起こりがちです。
ホウレンソウ
ホウレンソウはマグネシウム要求量が高い作物です。そのため、マグネシウムが欠乏すると葉の黄化が生じやすく、カリウムの過剰施肥でマグネシウムの吸収が滞ると葉色が淡くなりやすいです。
レタス・キャベツなどの葉菜類
これらの葉菜類はカルシウムを多く必要とするため、カリウムの過剰施肥によりチップバーンや結球不良が起こりやすくなります。とくにレタスのチップバーンは、若い葉の縁が黒くなり、商品価値が大きく損なわれます。
ダイコン・ニンジンなどの根菜類
根菜類では、カリウム過多によるカルシウム欠乏が起こりやすく、内部褐変や芯の空洞化といった品質障害が発生します。収穫後まで見た目にわからないため、対策を怠ると出荷後のクレームにつながることもあります。
バランスの良い施肥のために
土壌診断で基準値を把握するのがおすすめです。都道府県の農業試験場やJAなどで実施している土壌分析を活用し、土壌中の栄養成分含量を確認します。
なお、マグネシウムやカルシウムはpHが低いと流亡しやすいです(ただし実際の流亡は降雨量・土壌の保肥力(CEC)・有機物含量などの条件に大きく左右されます)。
また、カリウムが多めに含まれている場合にはこれらの要素を多めに補う必要がありますが、一度カリウムを過剰に施してしまうと、追肥でCaやMgを補っても吸収されにくくなる場合があります。
したがって、元肥時点での設計が最も重要です。特に、土壌が砂質で保肥力が弱い場合や、過去に多肥傾向があった圃場では注意が必要です。
とはいえ、カリウム、マグネシウム、カリウムの理想的な比率は作物や土壌条件によって最適値が異なります。慣れないうちは自治体や農業改良普及センター、民間の検査機関で土壌診断を受け、その際、理想的な比率や最適な条件について聞くことをおすすめします。
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