今更聞けない貿易のキーワード「セーフガード」とは。

今更聞けない貿易のキーワード「セーフガード」とは。

2021年3月、日米貿易協定に基づき、日本政府はアメリカ産牛肉を対象に「セーフガード」を発動しました。

セーフガードとは「国内産業に大きな損害を及ぼすほどに、農産物や鉄工業品などの輸入量が増えすぎた場合、その輸入量を一定以下に抑えるしくみ」を指します(出典:輸入制限措置(セーフガード)とは ニュースと解説 – 日本経済新聞)。

日米貿易協定では、アメリカ産の牛肉、豚肉、オレンジなどに対してセーフガードが導入されています。この年、アメリカ産の牛肉が日米貿易協定に基づく輸入基準数量を超えたことからセーフガードが発動し、牛肉にかけられていた25.8%の関税が38.5%まで引き上げられました(2021年3月18日から4月16日までの30日間)。

 

 

セーフガードについて

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セーフガードには輸入量を制限したり、「関税」を引き上げたりする方法があります。関税は税金の一種で、一般的には外国から輸入される貨物に対して貸される税金です。

セーフガードには3つの種類があり、農産物に関連するセーフガードには一般セーフガードと特別セーフガードがあげられます。もう1つは繊維類を対象品目とした繊維セーフガードですが、この繊維セーフガードは日本で発動したことはありません。

一般セーフガードと特別セーフガード

1994年GATT(関税及び貿易に関する一般協定)第19条とWTO(世界貿易機関)セーフガード協定に基づくもので、対象品目は農林水産物を含む全てのモノ全般です。

一方、特別セーフガードはWTO農業協定第5条に基づき、ウルグアイ・ラウンド合意において関税化された農産物に適用されます。農産物の種類は米、小麦、大麦、乳製品、でん粉など多岐に渡ります。

一般セーフガードは関税引き上げと輸入数量制限措置がとられますが、特別セーフガードの場合、規制を上回る輸入数量となった時に発動しますが、関税引き上げ措置のみで、輸入数量制限措置はありません。

なお、もう1つのセーフガードである繊維セーフガードは輸入数量制限措置のみです。

日本での発動

一般セーフガードの場合、関税引き上げと輸入数量制限措置がとられますが、正式に発動するためには、状況把握や政府調査、利害関係国との補償措置等の協議を行う必要があります。

2001年、日本政府は輸入が急増していたネギ、生シイタケ、畳表の3品目に対して「セーフガード暫定措置」を発動しました。この暫定的な措置は、「200日間を限度に輸入価格と卸売価格の差を関税引き上げで相殺できる措置」のことです(出典:青木健『日本のセーフガード発動の政治経済学』ITI季報 Autumn No.45、2001年)。たとえばこの時の生シイタケの税率は4.3%から266%に上昇しました。

主な輸入先だった中国は、対抗措置として日本製の自動車や携帯・車載電話、空調機の3品目に特別関税の追加的徴収を講じました。その後、日中間での協議の末、日本はセーフガードの正式な発動を実施せず、中国も対抗措置の撤廃を決めました。

TPP交渉とセーフガード

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一時期、新聞やニュースなどで度々取り上げられていたキーワードに「TPP」があります。

TPP、「環太平洋経済連携協定(Trans-Pacific Partnership)」は、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム、アメリカの合計12か国の間で交渉が進められてきた経済連携協定です。

2016年2月に署名されましたが、翌年の 2017年1月、アメリカがTPPから離脱しました。その後、アメリカを除く11か国の間で協定の早期発効を目指し、協議が続けられ、2017年11月に大筋合意に至り、2018年3月には「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」が署名されました。

TPPは「関税の撤廃や投資やサービスのルールの統一で貿易や経済を活性化する」ことを目的に作られました(出典:TPPブルネイ発効で11か国に 巨大経済連携の現状と先行きは?)。

日本では2018年、CPTPPが発効され、輸入する農産物や工業品などの品目の95%で関税が撤廃されました。

日本の場合、TPPが注目を集めていた時にも話題になっていたコメなど、農産物の重要5品目(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物)については多くの品目で関税が維持されています。

ただし、牛肉や豚肉といった一部の品目は段階的に関税が引き下げられています。

アメリカは、日本への牛肉や豚肉の輸出量を増やしたいと考えています。TPP交渉においては関税の引き下げではなく撤廃が求められますが、その中でも日本は、他の国に比べ、関税撤廃の例外を比較的多く確保しています。牛肉や豚肉といった一部の品目における関税の段階的な引き下げは、交渉国の要求に対応しつつも、重要な品目の関税撤廃を回避する手段ともいえます。

なお、CPTPPの合意内容を見ると、牛肉は16年という長期的な関税削減期間を設け、その年に迎える最終税率は9%です。牛肉と豚肉は輸入が急増した場合にはセーフガード措置がとられることになっています。

冒頭でご紹介したセーフガードの発動により、段階的に引き下げられていた牛肉の関税(TPP交渉前は38.5%、セーフガード発動前は25.8%)は一定期間38.5%まで引き上げられました。

 

参考文献:勝又健太郎『諸外国における農産物セーフガード発動の現状』(農林水産政策研究第6号 p.51〜81、2004年)

参照サイト

  1. 輸入制限措置(セーフガード)とは ニュースと解説 – 日本経済新聞
  2. セーフガード|さ|用語集|JAcom 農業協同組合新聞
  3. ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA
  4. 一般セーフガードについて 一般セーフガードは、1994年GATT(関税及び貿易に関する一
  5. 特別セーフガードについて 特別セーフガード(SSG)は、WTO・農業協定第5条に基づき、
  6. 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉|外務省
  7. 本当にわかるTPP~世界とともに生きていくために
  8. TPP交渉とセーフガード | キヤノングローバル戦略研究所
  9. 各国の農産物セ-フガ-ドの調査・発動事例 -WTOへの通報文書及び上級委員会報告書の概要
  10. 貿易を活発にする話し合い キーワード検索結果|NHK for School

(2024年3月11日閲覧)

  1. アメリカ産牛肉へのセーフガードって暮らしにどう影響するの?
  2. 日本発動の関税引き上げ措置「セーフガード」めぐり 日米協議 | NHK政治マガジン
  3. 米国産牛肉にセーフガード発動 関税引き上げ-農水省 2021年3月17日
  4. TPPブルネイ発効で11か国に 巨大経済連携の現状と先行きは?
  5. 何が変わる?ようやく11か国そろったTPP【コラム】
  6. 早わかりTPP(一問一答集)
  7. これまで21のEPA/FTA等が発効済または署名済。 ○ CPTPPにつ

(2024年3月19日閲覧)

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