身近な素材が病気予防や防虫に効く理由。米のとぎ汁や重曹、牛乳など。

身近な素材が病気予防や防虫に効く理由。米のとぎ汁や重曹、牛乳など。

農作物の病気の予防や病害虫対策に、化学的に合成された肥料や農薬ではなく、米のとぎ汁や重曹など、私たちの生活に身近な素材を活用する事例を度々目にします。

そこで、身近な素材が病気予防や防虫に効く理由や使用する際の注意点について調べてみました。

 

 

米のとぎ汁について

身近な素材が病気予防や防虫に効く理由。米のとぎ汁や重曹、牛乳など。|画像1

 

米のとぎ汁は農業にとって有用な微生物のエサになる成分を含んでいることから、土壌改良や病原菌に対する静菌力を向上させるものとして活用されます。

米のとぎ汁は米ぬかが薄く溶けた水といえます。米ぬかには炭水化物や油分、タンパク質、ビタミンやミネラルなどが豊富に含まれています。これらの有機物を土壌の微生物は餌として利用します。ただし、これらの有機物を利用するのは有用微生物だけとは限りません。病原菌が増殖する可能性も考えられます。また土壌中に過不足なく窒素があれば問題ないかもしれませんが、微生物が有機物を分解する際、植物の生長に欠かせない窒素が利用されることで、土壌中の窒素が減り、植物が育ちにくくなることもあります。

米のとぎ汁を活用する場合には、与える回数を工夫したり(毎日ではなく3日に1度など)、発酵させて有用微生物の数を増やしてから用いるのがおすすめです。例えば農山漁村文化協会編『自然農薬のつくり方と使い方―植物エキス・木酢エキス・発酵エキス』(2009年7月、農山漁村文化協会)では、米のとぎ汁で作る乳酸菌エキスが紹介されています。

米をといだ時の最初のとぎ汁を消毒したビンに入れ、和紙で蓋をして日の当たらないところに置いて起きます。4日ほど経つと沈殿物が生じます。チーズのような匂いがしてくるはずです。1週間から10日で3層に分かれ、薄黄色の真ん中の部分が乳酸菌エキスとなります。

米のとぎ汁発酵液(乳酸菌)の作り方は調べてみるとたくさん出てきます。上記の方法では米のとぎ汁で発酵させますが、糖分を加える方法もあります。またEM菌(Effective Microorganisms/有用な微生物群)と米のとぎ汁、糖蜜、水を加えて活性液を作る方法もあります(参考文献2,3,4)。

米のとぎ汁発酵液に関する研究論文についてもご紹介します。中田達矢「米のとぎ汁発酵液の特性とトマトかいよう病菌(Clavibacter michiganensis subsp.michiganensis)の増殖抑制活性に関する研究 」(2018年3月、京都学園大学)では、米のとぎ汁と牛乳を発酵させて作った米のとぎ汁発酵液が、トマトかいよう病菌の増殖抑制に与える影響について記載されています。

考察より、トマトかいよう病菌の増殖の抑制は、米のとぎ汁発酵液に含まれる乳酸菌(本研究内でLactobacillus fermentumが単離された)の生成物、ペプチド性の抗菌物質(バクテリオシン)の一種、による可能性が高いとあります。もちろん、これらは試験管内など人工的に構成された条件下で得られた結果であり、実際の圃場や施設園芸で同様に防除できるかどうかは課題として残っていますが、米のとぎ汁発酵液に含まれる乳酸菌によってトマトかいよう病菌の増殖の抑制に効果があると考えられます。また他の研究結果より、米のとぎ汁発酵液でネギ白絹病の防除に効果があるとの記述もありました。

 

 

重曹について

身近な素材が病気予防や防虫に効く理由。米のとぎ汁や重曹、牛乳など。|画像2

 

重曹(炭酸水素ナトリウム)はカビによって引き起こされるうどんこ病に効果があるとされています。ただし、使用する際にはいくつか注意が必要です。

炭酸水素ナトリウムにはキュウリうどんこ病やカンキツ緑かび病など、数種の植物病害を抑制する効果がありますが、植物体上で結晶化して葉焼け(葉が茶色くなったり白く色が抜けたようになる生理障害)の原因となったり、ニガウリにおいては防除効果はあるものの、炭酸水素ナトリウム水溶剤を散布した後、葉が壊死するといった薬害が発生するという報告もあります。

そのため使用する際は、水で800倍に希釈し、散布後、重曹が結晶化して葉が白くなってしまった場合には、葉焼けが起きないよう水で流します。またヒトに対する毒性はありませんが、目に入ると結膜炎を起こす場合があるので、散布する際はメガネやゴーグルをつけてください。

 

 

牛乳について

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牛乳はアブラムシの殺虫効果があります。原液か少しだけ水で薄めた牛乳をアブラムシにスプレーします。牛乳は乾くと固まり、アブラムシの気門(呼吸器)を塞ぎます。アブラムシが窒息死するので、葉に張り付いて死んだアブラムシを水で洗い流します。

牛乳スプレーを散布する際は、必ずよく晴れた日の午前中に行いましょう。曇りの日に散布すると、乾きにくいので効果がないばかりか、乾かずに残った牛乳が腐ったりカビが生えたりします。

アブラムシ対策で牛乳スプレーを実践した人たちの経験談を見てみると、「生臭い」「牛乳の臭いを取るのが大変」「カビなどの原因になる」といったデメリットが挙げられていました。また牛乳が乾燥すると、手などでこすらないと取れないといった声も挙がっています。

臭いが気になる場合は、片栗粉でも代用ができます。水で溶かした片栗粉を散布します。こちらも乾いて固まるとアブラムシの気門を防ぎます。片栗粉で代用する場合も、散布するのはよく晴れた日の午前中というのを忘れずに。

 

 

食酢について

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食酢の効果には窒素過多の解消、うどんこ病などの病気予防が挙げられます。

根から吸収された窒素は葉で有機酸と合体し、アミノ酸になります※。有機酸が不足すると、窒素が余り、植物は窒素過剰になります。また窒素のやりすぎや天候不順などでも窒素過剰が生じます。そんな時、食酢を葉面散布すると、酢に含まれる酢酸や有機酸が植物の窒素消化を助けます。

※参考URL:【高校生物】「窒素からアミノ酸ができるまで」|映像授業のTry IT(トライイット)

そして、うどんこ病への効果について。かなり古い文献ではありますが、円谷悦造・川村吉也「最近の非食品分野への食酢利用」(1994年、日本醸造協会誌/89 巻8 号)によると、食酢はうどんこ病、べと病、キュウリ斑点細菌病などに対する防除例が報告されており、イネばか苗病菌、イネいもち病菌などにも抗菌活性を示しています。

ただし伊藤大雄、上原子毅、二ツ森祐里、泉荘「食酢および酸性水を利用したリンゴ有機栽培における病害発生状況」(2012年、北日本病害虫研究会報/2012 巻63 号)では、“主たる防除資材と位置づけて連用するのは実用的でないと考えられる”と結論づけられています。

上記実験は、殺菌効果のある代替防除資材として食酢または酸性水を年間14回散布する形でリンゴの有機栽培を2年間実施し、各種病害の発病程度や果実収量、品質への影響を調査したものです。食酢のみを散布した区域では、毎年褐斑病やすす斑病などの病気が多発したとあります。リンゴに発生する病害への食酢の防除効果に関する過去の研究から、うどんこ病や褐斑病に対する一定の防除効果は確認されていますが、病気によっては効果が認められないという報告もあります。

食酢に限らず、先で紹介した米のとぎ汁、重曹、牛乳も、絶対的に効果があるもの、とは捉えず、あくまで補完的なものとして捉えることをおすすめします。

 

参考文献

  1. 農山漁村文化協会編『自然農薬のつくり方と使い方―植物エキス・木酢エキス・発酵エキス (コツのコツシリーズ) 』(2009年7月、農山漁村文化協会)
  2. 野菜に米のとぎ汁だけをあげるのはダメ?|みんなのひろば|日本植物生理学会
  3. 米のとぎ汁は植物に与えてはいけない!?植物に与える際の注意点|おこめやノート
  4. EM情報室 EM活性液・米のとぎ汁発酵液の作り方
  5. CiNii 博士論文 – 米のとぎ汁発酵液の特性とトマトかいよう病菌(Clavibacter michiganensis subsp.michiganensis )の増殖抑制活性に関する研究
  6. キュウリうどんこ病菌 (Sphaerotheca fuliginea) の生育過程に及ぼす炭酸水素ナトリウムの影響|J -STAGE
  7. ニガウリうどんこ病の薬剤防除 – AgriKnowledge
  8. 最近の非食品分野への食酢利用|J-STAGE
  9. 食酢および酸性水を利用したリンゴ有機栽培における病害発生状況|J-STAGE

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