ロボットを活用した選果技術の最新動向とは。

ロボットを活用した選果技術の最新動向とは。

近年、農業分野でもロボット技術の導入が加速しています。特に人手不足や高齢化が進む日本の農業では、スマート農業の推進とともに、自動化・省力化を支える技術として注目を集めています。

 

 

ロボット技術が求められる背景

ロボットを活用した選果技術の最新動向とは。|画像1

 

日本の農業は現在、さまざまな課題に直面しています。

たとえば就農者の減少です。1995年には約414万人いた農業従事者は、20年後の2015年にはおよそ半数の210万人にまで減少しました。また2020年時点で農業従事者の平均年齢が67歳を超え、若手の担い手不足が深刻で、今後の持続的な農業経営にとって大きな不安材料となっています。一方で、農地面積そのものは大きく変化していないため、1人の農業従事者が管理しなければならない面積は拡大しています。

こうした状況を受け、作業の省力化・効率化が急務となっており、その解決策としてロボット技術が期待されています。

 

 

すでに実用化されているロボット技術

ロボットを活用した選果技術の最新動向とは。|画像2

 

すでに実用化されているロボット技術で注目を集めているのが選果作業を行うものです。

イチゴなどの高付加価値果実の出荷作業において、選別・パック詰めは全体作業の約3割を占める重要工程です。しかし、作業の繊細さや熟練度の必要性から自動化が困難とされてきました。そんな中、近年はAIや画像処理技術の進歩により、ロボットを活用した実用レベルの選果・パック詰めシステムが登場しています。

農研機構西日本農業研究センターを中心に開発された「イチゴ自動選別パック詰めロボット」はその代表例です。このロボットは、果実の選別からパック詰め、フィルムがけまでを一貫して行うことができます。1時間あたり12kgの処理能力を有し、これは熟練作業者1人分に相当します。手作業に比べてパック1枚あたりの処理速度は最大40%向上し、吸着率は99%以上、果実の損傷もほとんどありません。

産業用ロボットなどの製造を行う株式会社安川電機もJA全農と共同で、AIを搭載したイチゴパック詰めロボットの実証を進めています。このロボットは、散らばったイチゴを瞬時に認識し、色や大きさ・形から最適な組み合わせを判断します。アームで吸着しながらヘタの向きを揃えてパックに配置するなど、店頭での見栄えまで考慮した動作が特徴です。こちらも熟練作業者並みのスピードで作業できます。

そのほか、農研機構と芝浦工業大学が中心となって開発を進めているのが「ウェアラブル選果デバイス」です。これはイチゴの果実を指先でつかむだけで規格を判別する装着型の端末であり、圃場でのイチゴの選別・パック詰めを可能にします。磁石やセンサーを用いてイチゴの大きさや重量を測定し、基準に従って分類します。2023年の実証では、従来の作業工程と比べて作業時間を14.5%短縮し、熟練者でなくても品質を保った収穫・パック詰めが可能であることが示されました。

ロボット選果には課題も

果樹や地域作物における選果作業は、従来から熟練作業者の目視による判断に大きく依存しています。特に果樹では、外観上の傷や内部の病虫害の検出、さらには柔らかい果実の荷下ろしや箱詰めといった作業も人手に頼っているのが現状です。

このような状況を打破するために自動選果技術の開発が進められていますが、発展途上な部分も多々あります。

たとえば現在は光センサーを用いた糖度や色の測定など一部の技術が実用化されているものの、病害虫や傷の検出にはより高度な画像解析技術が必要となるほか、多種多様な品種への対応には大量の品質データの蓄積と、それに基づいた判断技術の確立が求められます。

加えて、ロボット選果の導入には高額な設備投資が必要です。中小規模の農家にとっては初期導入コストや機器の操作、メンテナンスの負担が大きく、導入の障壁となっています。

 

 

今後も期待高まるロボット技術

ロボットを活用した選果技術の最新動向とは。|画像3

 

とはいえ、ロボット技術の導入には期待感も高まります。

選果作業以外にも、農業分野ではさまざまなロボット技術の導入が進められています。代表的なものは以下の通り。

  • ロボットトラクターやコンバインといった「車両型ロボット」
  • 搾乳や接木作業を自動化する「設備型ロボット」
  • イチゴの収穫やパック詰めを行う「マニピュレータ型ロボット」
  • 農作業の負担を軽減する「アシスト型ロボット」など

中でも、アシストスーツのように人間の動作を補助する装着型装置は、介護・福祉分野の技術を応用したものであり、今後の労働力確保に貢献が期待されています。

選果ロボットも、モモのような軟弱果実の取り扱いに対応したハンドリング技術や、農産物の3次元形状に応じた自動箱詰め技術の開発、選果工程の完全自動化など、機械の高度化が進められています。

前述したように課題もあり、選果ロボットの低コスト化や汎用性の向上、簡易な操作性の実現が求められますが、これらの技術の活用が農業全体の省力化と効率化を加速させるはずです。

 

参考文献:AGRI JOURNAL編集部『AGRI JOURNAL vol.35』(アクセスインターナショナル、2025年)

参照サイト

テクノロジーカテゴリの最新記事