農業の天敵カラスから作物を守るために【前編】鳥害対策前に知っておきたいカラスの生態

農業の天敵カラスから作物を守るために【前編】鳥害対策前に知っておきたいカラスの生態

農林水産省の調べによると、平成29年度の野生鳥獣による農作物被害金額は約164億円。被害金額が前年度に比べ約8億円減少(5%減)と、年々被害金額、被害面積、被害量は減少傾向にありますが、それでもなお鳥害による被害は少なくありません。

農作物に被害を与える代表的な獣類にはシカやイノシシ、サルなどが挙げられますが、日頃よく目にしている身近な鳥類も、農作物に被害をもたらす害獣です。

本記事では、被害金額、被害面積、被害量ともに鳥類トップのカラスに着目します。

 

 

カラスによる被害

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農林水産省によると、平成29年度のカラスによる被害金額は14億7千万円。前年、前々年度と比べると減少傾向にあるものの、その被害金額はシカ、イノシシに次いで第3位です。

雑食性のカラスは昆虫や果実だけでなく、鳥類の卵やヒナ、動物の死体やごみ捨て場の生ごみなども食べます。農作物だと野菜や果実だけでなく、穀物や飼料作物も被害に遭います。

 

 

カラスの生態を知る

農業の天敵カラスから作物を守るために【前編】鳥害対策前に知っておきたいカラスの生態|画像2

 

日本には5種のカラスが生息しますが、農作物に害を与える主なカラスは

  • ハシブトカラス
  • ハシボソガラス

の2種類です。

ハシブトガラスは日本全国、ハシボソガラスは九州より北の地域で見られるカラスですが、両種ともさまざまな環境下に出現します。また農村や田畑でよく見られるのはハシボソガラスと言われています。両種とも雑食性ですが、ハシブトガラスの方がハシボソガラスより動物性の餌を好み、ハシボソガラスの方が農作物などを好むようです。とはいえ、農村や田畑でハシブトガラスが見られることも珍しいことではありません。

カラスの生態

カラスは繁殖期以外は集団で行動し、繁殖期にはつがいをつくり子育てを行います。カラスから農作物を守るために対策を練る場合には、カラスの「繁殖期」と「非繁殖期」の生態を捉えることも重要です。

12月半ばから9月あたりまでが「繁殖期」にあたります。つがいで巣を作ると、巣から半径100〜400mをなわばりとします。繁殖期のカラスは一定のエリアに暮らし続けます。頭が良いカラスが、防鳥対策に慣れてしまわないよう、「慣れさせない」を念頭に置いて、さまざまな対策を用意する必要があります。

また繁殖期のカラスは捕獲トラップにかかりにくいです。その理由には

  • エサが手に入りやすい時期だから
  • 子育て中のカラスは警戒心が強く、危険な場所に近づかないから

などが挙げられます。

ヒナが独り立ちし、巣に帰らなくなると、親も巣を離れていきます。10月から12月ごろが「非繁殖期」となり、このときカラスは集団で生活します。といっても、日中エサを捕りに行くのに集団で行動するわけではなく、夜だけ共同のねぐらに集まって寝る、という集団生活です。

ただ、この時期はエサを探しにくくなる時期ということもあり、捕獲トラップを仕掛けるなら「非繁殖期」が向いています。

カラスの特徴

カラスの特徴で最も有名なのは「記憶力」なのではないでしょうか。カラスの脳の重さはニワトリの約3倍で、記憶や知能を司どる大脳が発達しています。カラスはその記憶の良さを活かし、どの時期にどんな場所にエサがあるのかを把握して行動します。

視力の良さも特徴的です。カラスの視力は人の数倍良く、上空や遠い場所から小さな昆虫を見つけるだけでなく、目の前のものもしっかり見える遠近両用。そして色の識別能力も高く、カラスには虹が14色に見えているんだとか。

そんなカラスの優れた記憶力と視覚は、対策に活かすことができます。というのも、カラスは人の顔を識別し、見分けることができるため、農作物を荒らすカラスに痛い目を遭わせれば、その場所を危険な場所と把握し、近寄らなくなる可能性があるのです。

またカラスはほ場に狙いを定めるとまずは周辺の電柱や木に止まり、その高い視力を使ってほ場をよく観察してから侵入してきます。そのため侵入経路を見つけたら、そこに対策グッズを置くのも効果的です。

ただ…カラスが厄介なのは「慣れる」ということ。警戒心が強いため、普段と違う環境になれば2〜3日は寄り付かなくなりますが、普段と違う環境に変化がないことに気づくとすぐに慣れてしまいます。たとえばカラスは他の鳥類同様、瞬間的に鳴る音を警戒しますが、一定の間隔で鳴る音や一定の大きさの音にはすぐに慣れます。繁殖期であっても非繁殖期であっても、慣れを防止するためにはさまざまな対策を用意する必要があります。

なお、カラスはあまり鼻が効かないため、ニオイを使った対策はできません。

後編では、カラスの生態や特徴を活かした具体的な対策法をご紹介していきます!

 

参考文献

  1. 全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(平成29年) 農林水産省
  2. 鳥類の基礎知識
  3. 自治体担当者のためのカラス対策マニュアルⅠ 基礎・現状編  環境省自然環境局
  4. 白山市 農作物への鳥獣害対策
  5. 『現代農業 2018年05月号』, 2018年5月1日, 一般社団法人 農山漁村文化協会
  6. カラスを知ろう:株式会社日立ビルシステム
  7. カラスは目が良い?とても優れた視覚をもつカラス

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