農業現場で見かけるダニの中には、作物に害を与えるものもいれば、そんな害を与えるダニや害虫を捕食する「天敵」として位置付けられるものもいます。本記事では、農業と関わりのあるダニについて紹介していきます。
天敵ダニと害虫ダニの違い
まず、害虫として知られる代表的なダニはハダニ類です。ハダニ類は葉の裏に寄生し、植物の汁を吸います。ハダニ類の吸汁は作物の生育不良や枯死を引き起こします。ハダニ類は特に温暖で乾燥した環境下において爆発的に増殖し、この場合、防除が難しくなります。
一方、天敵ダニの代表例として知られているのがカブリダニです。カブリダニはハダニやアザミウマ類を捕食し、これら害虫の増殖を抑える役割を果たします。
さまざまなカブリダニ
カブリダニは天敵製剤としても販売されています。害虫防除への利用が期待されているカブリダニにはさまざまな種類がいます。
ミヤコカブリダニは日本に土着するカブリダニです。幅広いハダニ類やアザミウマ、コナジラミも捕食します。餌となるハダニ類以外に花粉を食べても生存できるので、ハダニ発生前の放飼に適しています。
チリカブリダニは赤橙色をしており、ナミハダニやカンザワハダニのみを捕食します。捕食力が高いのが特徴で、ハダニの密度を急速に低下させますが、餌となるハダニを食べ尽くすと、その後、チリカブリダニもいなくなってしまいます。
スワルスキーカブリダニはコナジラミやアザミウマの幼虫を捕食し、花粉も食します。高温多湿を好み、花粉が多いピーマンなどでの定着に優れていますが、低温には弱い点に注意が必要です。
リモニカスカブリダニはスワルスキーカブリダニに似ていますが、こちらはアザミウマの2齢幼虫も捕食することができます。スワルスキーカブリダニよりやや低温に強いものの、高温には弱く、30℃以上になると活動しにくくなります。
ククメリスカブリダニはアザミウマやコナダニ類などの捕食者で、こちらも花粉で生存できます。予防的放飼に適しますが、高温や低湿度といった環境下では生存・増殖がしにくくなります。
キイカブリダニは和歌山県で発見されたカブリダニで、アザミウマやコナジラミを捕食します。雌成虫の体色がハダニに似ているという特徴があります。
そのほかにも、以下のようなカブリダニがいます。
- ニセラーゴカブリダニ:ミカンハダニを捕食する。
- コウズケカブリダニ:ハダニやアザミウマを捕食するが、主に花粉を食べる。
- ヘヤカブリダニ:海外にも分布し、施設果菜類で多く確認される。ハダニやアザミウマを捕食するが、捕食量は少なめ。
- サイタマカブリダニ:1998年に埼玉県で発見された新種。
代表的なカブリダニの長所と短所
ハダニ類の天敵として利用されるミヤコカブリダニとチリカブリダニですが、それぞれに天敵製剤としての長所と短所があります。
ミヤコカブリダニ | チリカブリダニ | |
長所 |
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短所 |
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天敵となるダニを活用するためには
天敵(益虫)となるダニ、特にカブリダニ類を効果的に利用するためには環境の整備が重要です。
まず、まず、カブリダニ類はハダニ類などの害虫を捕食するため、彼らの定着に適した環境を作ることが求められます。例えば、施設栽培やナシ園内では、下草を残すことでカブリダニ類が生息する場所を提供することが有効とされています。草を残すことにより、カブリダニが安全に繁殖しやすくなり、その後のハダニ類の発生を防ぐことができます。
また、カブリダニ類に影響の強い薬剤の散布を避けてください。放飼前にはカブリダニに影響の少ない選択的な薬剤を使用し、散布後1週間程度は慎重に取り扱うことが推奨されます。
さらに、カブリダニ類が定着しやすい環境を維持するためには、温度や湿度の管理にも気を配ることが求められます。カブリダニは過度の直射日光や乾燥に弱いため、適切な環境調整が重要です。特に、生物製剤として使用する際には、ボトル内のカブリダニが弱らないように注意し、直射日光を避けてください。
参照サイト
- ダニの世界 ―この豊かな生き物たち―
- 天敵ダニと害虫ダニの違いを教えてください。|野菜|質問一覧|営農相談コーナー
- カブリダニ識別マニュアル
- 購入できるカブリダニ類の生態と特徴 : 高知県農業技術センター
- 天敵紹介(高知県の果菜類栽培ほ場で発生している天敵カブリダニ類 )
- ミヤコカブリダニ – ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA
- ククメリスカブリダニ – ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA
- ヒゲ親父が語る天敵の話 【13】|やまなか さとし
- 施設栽培イチゴにおけるカブリダニを利用したハダニ類のIPMマニュアル
- ニホンナシの害虫ハダニ類に対する天敵カブリダニ類を活用したIPM防除/千葉県