

2026年3月17日にホテルに迎えに来てくれたJAあいち豊田のSさんの案内で、株式会社中甲の杉浦社長を訪ねた。中甲は、昭和49年に旧高岡農協の協力で「農地を守るとのコンセプト」のもと35haで始まり、平成22年に株式会社になった農業生産法人である。この地域は、兼業地帯で「兼業深化の中でいかに農地を守るかという」重大な課題があった。そこで、農協が中心となり担い手と連携した農地集積の取組みを始めたのである。具体的には兼業により発生した農地を農協が中心となり中甲などの農業法人に斡旋したのである。そのために、現在、中甲の農地はまとまっており、また、事務所は元JAの事務所であり、賃料を安くして借りているなど農協との協力体制を構築している。この農協の中甲に対する優遇策については、旧高岡農協が2002年にあいち豊田と合併した時に、他の組合員から「不公平」ではないかとの疑問も出たが、地域の農地を守るとの理念で、なんとか納まったとの事だった。
組織は社長、取締役2名(専務、常務が役員)であり、事業部は総務部、技術管理部、北部事業部、南部事業部、園芸部、有機部の6部に別れている。コメの出荷先の90%は農協で、乾燥機などは保有しておらず、全量、中甲の事務所の隣にあるJAあいち豊田のカントリーエレベータに出荷している。
経営概況
中甲の経営規模は利用権設定した借地で498haである。栽培している作物は200haコメ、270ha麦、大豆50haで、これら3作物を2年間で稲⇒麦⇒大豆の3つの作物を順に栽培する2年3作のブロックローテンションを採用している。また。とうもろこし50ha、キャベツ3ha、レンコン30~50aを生産している。
現在、社員は外国人を含め27名おり、その内日本人は20名、7名はベトナム人で、3名が特定技能者、4名が技能実習生である。特定技能者3名のうちの1名が2号で日本に永住する予定で家族を呼び寄せている。残りの2名は1号である。その他、アルバイトは期間限定で地元の農家に頼んでおり、現在、15人から18人で、主に圃場の水回りを担当してもらっている。
中甲の年間栽培スケジュールは、3月末に育苗を始め、4月20日頃から5月半ばまでが田植、その後、6月に麦収穫、7月に大豆播種、9月から10月までがコメの収穫で、その後11月に麦の播種、12月に大豆の収穫となっている。具体的な作業日程は、労働力やブロックローテンションの兼ね合いによる決まる。
生産費については、全生産費の50%が人件費、20%程度が農業機械、資材・燃料が25%程度になっている。最近の軽油の高騰は経営に大きな影響を与えているが、肥料・農薬・軽油など生産資材の価格は自分では決められないので、国を含め何とかして欲しいとのことだった。なお、地代は10aあたり1万なので、全体で約5,000万程度だと思われる。
所有する機械は、コンバイン14台、小型建機2台、散布機1台、トラクター26台、田植機4台、管理機8台、リフト1台の合計56台であり、これらの機械を北部事業部19台、南部事業部22台、園芸部7台、有機部2台、技術管理部6台に分けて管理している。機械購入には補助金を利用しているが、機械補助金の獲得は年々厳しくなり、現在は、規模拡大をしなければ補助金はでない仕組みになっている。しかし、国は大規模農業法人に対し、優遇策、すなわち、農業経営基盤強化準備金制度を用意している。この制度は、農業法人や認定農業者が、将来の農地や機械の購入、温室・農機具倉庫のために資金を積み立てる際、その積立額を損金(必要経費)として処理できる税制上の特例であり、積み立てた準備金を損金算入し所得税や法人税の負担を軽減できるメリットがある。例えば、3000万の利益が出た場合に、この金額を将来の農機具購入の積立金とすれば、その金額には税金がかからないのである。ただし、5年以内で農機具等を購入するのが条件となっている。要するに、大規模農業法人の節税対策の一つで利益がある法人だけが利用でき、中甲でもこの数年の米価高騰で利益が出てこの制度を利用している。
転作補助金と大規模農業法人の実態
中甲を含めた農業法人では経営の中に占める転作補助金の割合が極めて大きい。そこで、農水省の資料を基に転作補助金について説明しておこう。畑作物の直接支払交付金には「ゲタ対策」と「ナラシ対策」の2つがある、「ゲタ対策」は直接支払交付金と呼ばれ、「標準的な生産費」と「標準的な販売価格」の差額分を支払う補助金(交付金)である。対象者は、認定農業者、集落営農、認定新規就農者などで、麦、大豆、てん菜、でん粉原料用ばれいしょ、そば、なたねを対象としている。補助金は当年産の作付面積に応じて支払われる先払いの面積払と数量払に分かれている。令和8年度は、面積払い2万円/10a(そばについては1.3万円/10a)であり、収量払は小麦5,590円/60kg、大豆10,340円/60kg、そば15,930円/45kg、なたね6,410円/60kgなどである。また、「ナラシ対策」は収入減少影響緩和交付金と呼ばれ、米及び畑作物の農業収入全体の減少による影響を緩和するための保険的制度で、米、麦、大豆等の当年産の販売収入の合計が、標準的収入額を下回った場合に、その差額の9割を補てんしている。したがって、面積が大きい大規模農業法人ほど支払われる補助金は大きいことになり、この転作補助金が無ければ大規模農業法人は大幅な赤字になってしまうのである。
表-1に2024年の農林水産省の農業経営調査(営農類型別経営統計)の一部を示している。この表から、我が国の水田法人経営の経営状況を知ることができる。


表-1から、2024年の100ha以上の水田法人経営では、営業利益は3218万の赤字となっていることが確認できる。この営業利益が赤字と言うことは、本業の農業での稼ぎはマイナス、つまり、儲かっていないことを示している。これに対し、経常利益は3770万3000円の黒字となっている。経常利益は、経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用と計算されるので、営業利益がマイナスにも関わらずこの値がプラスとなっているのは、補助金を含む営業外収入が7305万5000円あるからである。つまり、我が国の100ha 以上の水田作大規模農業法人は、共済・補助金等の農業補助金が無ければ経営が成り立たないことを示しているのである。
中甲でも、米価が2010年12711円、2014年11967円、2021年12804円、2022年13844円と14000円を下回った時は、営業利益は赤字になり、転作補助金でどうにか経常利益は黒字になったが、22700円と2万円を超えた2024年には営業利益は黒字になったとの事だった。なお、米価は相対取引価格の全銘柄平均価格である。
多くの国民は、この事実、つまり、大部分の大規模農業法人の営業利益が赤字になっていることを知らない。その理由は、国は農業を大規模化すれば、規模の経済によりコストダウンが実現し儲かると考えており、多くの農業を知らない国民は、この国の考えを信じているからである。しかし、国の統計が正直に示しているように、大規模農業法人は農業生産だけでは経営を維持できない、つまり、企業会計基準では農業は儲かっていないのである。さらに、国は、国民に向かっては、農業の競争力を高め、コメの海外輸出などとアジっている。しかし、大規模農業法人の舞台裏は表-1に示された状況なのであり、表-1からは、20haから50haの農業法人だけが営業利益も経常利益も黒字になっているのである。さらに、表の形では示してはいないが、2024年の水田個人経営体の農業経営調査によれば、50ha以上の水田個人経営体だけが営業利益は赤字であり、それ以外のすべての小規模・中規模階層では営業利益は黒字になっているのである。これが何を意味しているかはここでは触れないが、少なくとも、転作を含めた我が国の水田作経営は、官僚たちが机上で考えている規模拡大主義だけでは成り立たないのである。
スマート農業
スマート農業の基本となるGIS(地理情報システム:緯度・経度情報を持つ圃場(地図)データに田植え日、肥料投入量などの営農情報を入力し、地図上で管理するコンピュータシステム)については、中甲ではエクセルで作成した圃場地図で管理している。具体的には、エクセル上の圃場と地名地番や作業日誌(田植え日など)などがリンクしており、圃場をクリックすると、その圃場の作業内容が確認できる仕組みとなっている。このシステムを導入した当初は、社員は「面倒だ」と言って非協力的だったが、その後、徐々に、社員はこのシステムを理解してくれたそうである。今年度からは、新潟のウォーターセルのアグリノートを導入する予定である。また、圃場ごとの地力が見られるザルビオの導入を検討している。
ドローンの活用については、農薬・肥料散布にドローンを導入している。機種はDJIT25で、作業は外部委託している。ドローン活用のメリットは作業時間の短縮によるコスト削減であるが、現在の所、作業する人材が2名必要なので、農薬・肥料散布作業だけではコスト削減に限界があるが、今後、他の作業に活用できればメリットがでると考えている。現在、麦については、ゴールデンウィークにラジコンヘリを使った農薬散布を、コメについては5月末から6月に除草剤散布を行っている。なお、大型トラクターを含めた自動運転のロボット農業については、最低1haに区画された大規模圃場が必要だと考えているが、圃場面積が大きくなればなるほど圃場の均平化に問題があると考えており、今の所、実現は難しいと思っているとのことだった。
経営における問題点
杉浦社長の話によれば、中甲では、米価2万/60kならば、現行の転作補助金政策が存続すれば十分にやっていけるとの事だった。今後の規模拡大について質問すると、「この地域では10年前くらいからの米価下落の影響で、20ha程度の家族農業経営はコメ生産から撤退したので、中甲では、その農家の圃場を借りて規模を拡大したが、規模拡大も一段落したところである。今のところ、新たな耕作放棄地が出ても、それらの圃場は地力が低かったり、畔があったり、道路状況が悪いなどの問題があるので、このような圃場は借りたくないのが本音のところだ。しかし、農協との関係を考えると「借りない」とは言いにくいので、そのような圃場は、借りないで雑草の刈取り作業をやっている」と答えてくれた。
最後に、「今後の地域農業を残すためには何が必要か」との質問には、杉浦社長は「現世代まではなんとかなるが、次の世代の後継者が重要となる」と答えてくれた。
稲田宗一郎(いなだ そういちろう)























