ドイツ紀行3-ハイデルベルグの酒場にて

ドイツ紀行3-ハイデルベルグの酒場にて

Weinstube Schnitzelbank

(ワインバーの店員)

旅に出ると私は、国内でも海外でも地元の居酒屋に行くのが習慣となっている。居酒屋に入り、その店の大将や女将、あるいは、同席したお客と会話するのが楽しみだからだ。酒や肴や言葉にその地域特有のアクセントがあれば、「旅にきている」との最高な気持ちになるからだ。今回もハイデルベルグのワインバーWeinstube Schnitzelbankに向った。ドアを開けドイツ語は話せないので人差し指を上げ「one」といった。人のよさそうな店のおじさんが大きく頷いた。不安を感じさせないさりげない普通の対応だ。この普段着の対応が旅人を安心した気持ちにさせてくれる。これは日本でも外国でも同じようだ。

おじさんは目の前の大きなテーブルの空いた席を示した。相席だった。繁盛店らしい。メニューを見て注文を慎重に考える。前日、ベルリンの店で、サラダとシュニッツェルを注文したところ、量が半端ではなく食べきれなかったからだ。ワインバーなので当然ワインを飲む。考え抜いてオニオンスープを注文した。テーブルは私を除いて10人近くの客がいた。周りに目をやると、どのテーブルにも客がいた。テーブルをはさんだ前の席の客は白ワインを飲みながらサラダを食べている。どこから来たのと聞いてみると、ハノーバーからきたドイツ人夫婦だった。

暫くするとオニオンスープが来た。一口飲んでみるとザワークラウトの素朴な味がした。その味は「ここはドイツなのだ」と改めて認識させる味だった。スープについていた固めのパンとワインをやりながら、前のドイツ人夫婦と英語で話をしたら、奥さんが、私のスープをみて、Good チョイスと言った。奥さんはシュニッツェルを食べているのだが、どうも、量が多くて持て余しているらしい。そこで、私はベルリンでのサラダとシュニッツェルの話をしたら、奥さんは、再度、Good チョイスと言った。これを聞いていた、私の隣のおばさんも自分の注文したスープを指さし同じようなことを言った。彼女は香港からきたイギリス人のようで、ハイデルベルク大学で美学の短期研修にきているらしかった。彼女の前の席はアメリカ人夫婦だった。

この店は人数席が多いために相席になる確率が高いらしい。それがこの店の特徴らしく、それぞれのテーブルでそれぞれの人たちが会話を楽しみワインを飲んでいる、まさに、一期一会が目の前にあった。旅のだいご味がこの雰囲気に同化されている。知らない町に行った時に、最初は、町の風景の中に自分が一体化しておらず何か浮き上がっている感じを持つ、これでは、町を、村を、旅を楽しめないのだ。

(パブ Karl)

(Karlの客)

一期一会の人たちにもう一軒飲みに行くと言ってワインバーを出た。ハウプト通りからグローゼンマンセルガッセに入り突き当りのラウアー通りを左折した。グーグルで調べたKarlというパブに向かった。店があった。飛び込みで入る。まだ、時間が早いせいか客は少なかった。ドアを開けると店のママが怪訝な顔して私を見た。日本人の年寄りなどは来た事がなかったのか、ママは、私を異端児とみていた、まるでエーリアンを見ているようだった。私を警戒しているようだった。

「お客さん、ここはホテルじゃないよ」と言った。
見たこともない外国人、それも日本人が入ってきたからだった。私はビールを飲みに来たのだと言って、手でビールを飲む真似をして答えた。
カウンターに座った。一人の赤いジャンパーの酔っ払いがいた。この相手をしていたカウンター席の端に腰かけている老人二人もゆっくりとビールを飲んでいた。おそらく、年金生活者らしい。なぜそう思ったのかと言えば、日本でも居酒屋で同じような光景をみたことがあったからだ。飲むスピードが遅かった、さらに、1人がもう一人を気にしながら飲んでいる。

ビールのお代わりをしながら観察してみるとこの店は地元の人間が集まるパブらしい、少し若い客が入ってきて、黙って店の奥でダーツをやっている。さらに、馴染みの夫婦らしい客がきてママと話をして奥の席に入っていった。そのうち、赤いジャンパーの客が何か言った。もう一杯欲しいとか言っているらしい。それを聞いたママは、
「お前は飲み過ぎだ。もういいから帰れ」って感じで強く言った。どうもこの赤い奴は、飲んべいで、店にとっては良い客ではないようだ。

私は妙に納得した。日本の居酒屋と同じ景色だったからだ。飲んべいはドイツ人も日本人同じなのだ。

 

【プロフィール】
稲田宗一郎(いなだ そういちろう)
千葉県生まれ。小説『夕焼け雲』が2015年内田康夫ミステリー大賞、および、小説『したたかな奴』が第15回湯河原文学賞に入選し、小説家としての活動を始める。2016年ルーラル小説『撤退田圃』、2017年ポリティカル小説『したたかな奴』を月刊誌へ連載。小説『錯覚の権力者たちー狙われた農協』、『浮島のオアシス』、『A Stairway to a Dream』、『やさしさの行方』、『防人の詩』他多数発表。2020年から「林に棲む」のエッセイを稲田宗一郎公式HP(http://www.inadasoichiro.com/)で開始する。

 

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