野畑和明さんを訪ねて-愛知県新城市-

野畑和明さんを訪ねて-愛知県新城市-

11月7日東京駅8:33発のひかり635号に乗り豊橋駅でJR飯田線に乗り換え新城駅で下りた。タクシーで「道の駅:つくで手作り村」に向かった。今回の取材先の野畑さんと待ち合わせるためだ。道の駅で蕎麦を食べ、迎えにきてくれた野畑さんの車に乗り、トマトハウスで取材を始めた。

野畑和明さん

44歳での農業出発

野畑さんは、現在、65歳になるが、44歳で就農した新規就農者だった。大阪出身で実家な農家ではなく、父親は教員だったそうだ。神奈川の大学を卒業後、医薬品会社のMRをやっていたが、勤めてから何年か経った頃、野畑さんは「自分はMRの営業には向いていない」と感じた。人間には、もともと、営業に向いた人間と向かない人間がいることを何年かのMRの経験で気づいたのだ。
退職を決意し、農業は良いと思ったが、自分の家は農家とは全く関係がないので、農家にはなれないと思っていた。そんな時、愛知県の就農フェアがあり試しに参加してみた。その就農フェアでは、先進地視察があり、たまたま、新城市のトマト農家を視察した。そのトマト農家の説明と新城の風景が気に入り、即座に、その農家に弟子入りを志願したそうだ。恋愛で言えば一目惚れだ。その時、その農家からは良い返事はなかった。しかし、野畑さんは諦め切れずに、1週間後に再び新城市を訪れ、そのトマト農家に弟子入りを志願したのだ。師匠はその熱意に打たれ、作手村の農業公社の研修生になるための保証人を引き受けてくれた。野畑さんは、1年間、農業公社の研修生として、師匠のもとでとトマト作りを修行し、研修が終了した1年後に認定農業者第1号になり、公社から40a農地を斡旋してもらうことができ晴れて農家になれた。後に、この農地を地主農家から購入した。

 

ハウス内のトマト

経営概況と栽培の特徴

野畑さんは、JAあいち東トマト部会作手支部に所属している。栽培面積は35a(24a +JAレンタルハウス10a+パイプハウス1a)で、トマトの品種は、JA共選品種の「りんか409」である。ビニールハウスは、県5割、村1割の中山間補助金に自己資金4割で建設した。労働力は、本人、妻(収穫)、パート2名(通年:1名は21年、1名は18年のベテランで、あらゆる作業ができる)、さらに、収穫時の6月から11月には、ベテランパートと週末パートを頼んでいる。
トマト栽培は土耕栽培であり、堆肥は和牛糞尿+籾殻+魚粉(カニがら、牡蠣)+コメ糠で自ら作っている。年間の大まかな生産スケジュールと栽培の特徴は、1月から2月にかけて堆肥作り・土作り、3月に畝上げし堆肥を散布する。苗は愛知経済連から購入し、4月から3週間かけて育苗し、1ヶ月かけて1株ずつ定植する。6月から12月が収穫・出荷時期である。また、トマトは酸性に弱いので、腐食酸養液を2週間に1回程度使っている。その使い方は、腐食酸をトマトの下部の根の部分と上部の葉の部分に分けて与えるらしい。そうすると収量が増加すると教えてくれた。
採算ベースは反収10㌧だが、1年目は7㌧しか取れなかった。道路添いのハウスの水はけが悪いのが原因の1つだと語ってくれた。その後、徐々に技術があがり、現在では、反収14㌧に近づいている。技術は同じ研修生だった農家に聞きながら習得している。最近は、害虫も農薬に対する耐性ができたのか、薬が効きにくくなっており、これが収量増加を妨げているらしい。このような状況の中でも、害虫防除の農薬散布方法を工夫し、反収20㌧を達成している就農6年目の若手就農者がいる。野畑さんはこの農家から農薬散布の方法を学び、今年から、その方法をトライする予定だ。

販売方法

販売はJAあいち東への共選出荷(名古屋、豊橋、浜松市場)である。「JAの共選を選んだのはなぜですか?」と質問すると、野畑さんは、直販は、儲けは多いがリスクが高いので共選を主体としていると答えてくれた。6月から11月まではJA出荷、その後、加温して、みちの駅、Aコープ産直コーナーに出荷している。今年は、暑さのせいでS品が6割で、L、M品は少なかったが、品薄で価格は高かったそうだが、今後は、価格が高いL品、M品を目指すとの事だった。

農業とナノバブル

野畑さんによれば、サラリーマン時代に比べて現在のトマト作りは、作業にメリハリがあり楽しい、それが、農業に従事している1つの理由だと語ってくれた。また、農業は、例えば、「9:00から17:00まで仕事」との営農スタイルも可能なので、自分の生活にあったスタイルが選べるのが良いとのことだった。さらに、トマト作りは、新しい技術を導入すれば、収穫増につながる可能性があるので、この点も面白いとの事だった。
ナノバブルを導入したのは、道沿いの水はけの悪い、地下水が高いハウスにナノバブルを使ったところ、使わなかった時に比べて、トマトの葉が幽霊のようにダラリとなっていたものが改善し、また、根腐れ予防にもなったようで、収量増につながったからだと答えてくれた。現在、カクイチから黒ボク土壌でのナノバブル使用への協力依頼がきているので、協力するつもりだと教えてくれた。また、来年から、光合成を促す二酸化炭素発生装置を導入し、収量増加を目指す予定である。

後継者と新規就農者

子供は女子が2人なので後継者には難しいと思うと語ってくれた。もし、トマト作りをやりたいという若者がいれば、将来的には譲っても良いと答えてくれた。また、この地域は他地域と比べて、新規就農者は多いが、彼らの希望する作物は、トマト、ほうれん草、イチゴなどであるが、野畑さんは、この地域の代表的作物の自然薯農家に後継者がいないので、新規就農者に自然薯にトライしてもらいたいと語ってくれたのが印象に残った。

 

 

【プロフィール】
稲田宗一郎(いなだ そういちろう)
千葉県生まれ。小説『夕焼け雲』が2015年内田康夫ミステリー大賞、および、小説『したたかな奴』が第15回湯河原文学賞に入選し、小説家としての活動を始める。2016年ルーラル小説『撤退田圃』、2017年ポリティカル小説『したたかな奴』を月刊誌へ連載。小説『錯覚の権力者たちー狙われた農協』、『浮島のオアシス』、『A Stairway to a Dream』、『やさしさの行方』、『防人の詩』他多数発表。2020年から「林に棲む」のエッセイを稲田宗一郎公式HP(http://www.inadasoichiro.com/)で開始する。

 

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