
はっぴー農産は「都市や地域に暮らす人たちのために、豊かな自然を提供し、皆さんの交流の場となるように心豊かな農業を目指します」を経営理念に生産から販売まで手掛ける農業生産法人である。今の代表取締役の黒野さんは3代目で、黒野家は昔から四郷町に住んでいた農家ではなく3代前に祖父が西尾市から移住し、豊田市に土地を購入し農業を始めたとの事だった。祖父の代から直売を行っており、初めはトラックに野菜などを積んで工場などに出向く引き売り販売を行っていたが、2代目の父から敷地内に販売所を建て直接販売を始め、3代目も直接販売を継続している。はっぴー農産は、消費者から必要とされる存在になる、地域から必要とされる存在になる、スタッフから必要とされる存在になることを経営の方向として掲げている。
経営概況について
面積規模は自作地80aを含めた水田85ha、果樹園70aであり、水稲60haと小麦25ha、桃70a、トウモロコシを栽培し、自社のコメから玄米粉のバウムクーヘンを作り販売している。地主が300人もいるので、賃貸手続きが大変だと黒野さんは話してくれた。労働力は本人と妻と両親であり、従業員は常勤13名とアルバイト10名で、田圃の水管理と草刈には1名の担当社員を置いている。
年間の栽培スケジュールは、3月のトウモロコの定植、籾播き、4月、5月の桃の摘果と田植え、6月のトウモロコシの収穫と桃の袋掛け、麦収穫、田植え、7月のトウモロコシの収穫、桃の収穫、畦畔管理、8月の畦畔管理、稲刈り、乾燥調製、9月、10月の稲刈り、乾燥調製、11月の麦播き、荒起こし、12月、1月の桃の剪定、荒起こし、田直し、2月のトウモロコシ準備、2番耕起となっている。
所有している農業機械はトラクター7台、田植え機2台、コンバイン3台、乾燥機(ライスセンター)14台などで、ライスセンターは40年前から自前で備え、近くの兼業農家のコメの乾燥作業を受託し、現在に至っている。また、耕起、田植え、稲刈りの作業受託も行っている。
生産費は人件費が7400万、農業機械・減価償却費が1500万、資材・農業原価6400万のうち燃料代は400万、地代は460万である。
独自の販売戦略―6次化戦略とHPを活用した直接販売
2023年9月28日に新たな付加価値を目指し玄米粉のグルテンフリーバウムクーヘンの店「はっぴーバウム」をオープンした。バウムクーヘンは冷凍保存ができ、また、原料の玄米粉は自社で生産しているので効率的だと考えたからである。バウムクーヘンの製造は、経済産業省のコロナ後の事業再構築補助金(新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業・業種転換、事業再編などの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援する:経済産業省HP)を活用した。この補助金は補助率2/3で4000万円だった。これに自己資金5000万を加え、9000万でバウムクーヘン製造機械の購入と建物を建設した。米粉に適した専用品種「ミズホチカラの特別栽培米と地元の養鶏農家の卵を使用した「こだわりの地産地消バウムクーヘン」を豊田市のブランド贈答品として育てることが当面の課題だと黒野代表は語ってくれた。
また、コメ、桃、トウモロコシはほとんどが直接販売である。具体的には、自社の店舗販売、ネット等の産直販売、生協、飲食店、米穀店への直接販売である。また、トウモロコシと桃はコメを売るためのアイテムとして位置づけしている。筆者が、「なぜ、直接販売にこだわるのですか」と質問すると、黒野代表は「親の仕事をみて育ったからだと思う。その時に、両親の仕事が楽しそうだと子供心に思い、親の販売形態の直販、すなわち、お客の顔が見える販売がしたいと考え後を継いだ」と答えてくれた。この答えを聞いて、筆者は、はっぴー農産のコンセプトである「3者はっぴー、1者:はっぴー農産とスタッフ 2者:はっぴー農産と消費者 3者:はっぴー農産と地域住民のみなさま」が分かったような気がした。
直接販売を展開するためにはネット販売は欠かせないが、はっぴー農産では自社のHPを充実させている。販売CATEGORYは、はっぴー米(玄米30k、白米5k、白米2k)、桃、はっぴーコーン、加工品(米粉、もも・とうもろこしアイスクリーム)、ギフト用に分けられ、また、コメ、桃、コーンごとに商品紹介、栽培方法・こだわり、お客様の声などを写真入りで掲載している。さらに、直売店や取扱店情報を見ることもできるなど工夫されている。

補助金活用と経営における課題
利用している補助金は、水田活用直接支払い交付金(前々回説明)、環境保全農業直接支払い補助金(前回説明)と豊田市農業チャレンジ補助金である。豊田市農業チャレンジ補助金は、豊田市農業の持続的発展と農業者の所得向上を実現するため、農業の環境負荷低減やスマート化に向けて、農業者の新たな取組(チャレンジ事業)を支援し、対象とする事業の2分の1以内(上限額100万円)を補助している。はっぴー農産ではトラクターの自動操舵システムやアイガモロボの導入に豊田市農業チャレンジ補助金を活用してきた。
労働力の確保はアグリナビと職安を活用している。また、経営における課題については、コメの直売の年間契約顧客から会員としていかに取り組むか、こだわりのバウムクーヘンの販路をいかに拡大するかである。最近の肥料・農薬・軽油など生産資材の価格高騰に対しては、個人での直接対応は難しいので農協と商系との使い分けなど、少しでも安く購入することを目指している、さらに、農業機械の減価償却については、コストダウンにつなげるために整備技術をいかに向上させるかが喫緊の課題であると答えてくれた。
スマート農業と規模拡大
最初はトヨタの豊作計画を使っていたが、現在はウォーターセルのアグリノートを使っている、これらのシステムを利用するためにはデータ入力が必須だが、当初、データ入力は「農作業中にこんな面倒なことはできるか」などと社員の協力が得られず、データ入力に負担に感じた社員はやめていったとの事だったが、それ以降、データ入力作業を必須項目として社員募集をかけるなどの対策を講じた結果、栽培データ等は徐々に蓄積されシステム構築が進んだとの事だった。現在は社員が作業現場にスマホを持参し作業履歴の入力や確認をしている。また、今年から、衛星画像を活用した圃場の地力ムラ・生育ムラを確認できるザルビオの導入を検討している。アグリノートの費用は年3.3万円、ザルビオの基本料金は1,000円/haであり、基本料金にはNDVI(正規化差植生指数)が含まれているとの事だった。
ドローンの活用についてはDJIT25を使い追肥・防除作業を行っている。ドローン用の肥料は窒素45%を含む粒状のドローン専用肥料を使用している。また、カメムシ用に液剤を使用しており、晩生品種には2回散布している。ドローンと動力噴霧器を比較するとドローンでは6ha/日散布できるのに対し、動力噴霧器では3ha/日散布とドローン使用の効率が2倍程度であり、今後も使用する計画である。
規模拡大について現状は100haまでは可能であるが、作業効率を上げる為に積極的に畦を外し、レベラーで均平合筆化を行っているが、高低差が大きい地域の為、一区画的には60aあたりが限界ではないかと考えている。耕作放棄地は増加傾向にあるが、これらの耕地は地力が低かったり未整備だったりと圃場条件が悪いのが現状である。今後、猿投地域でかなりの面積の耕作放棄地がでる可能性があり、この農地を自分ともう一つの担い手農家が引き受けるかどうか検討している。しかし、獣害が拡がってきており、今後の耕作放棄地対策が最重要課題となっている。
なお、豊田市は昔から地域的に兼業化が進み、家族経営農家は減少しその農地はエリアごとに農業法人に振り分けされ、農地の集約化が進んでいる。農業法人は若者を社員として雇用し、農業法人に就職するという形で新規就農者は増えている。
稲田宗一郎(いなだ そういちろう)










