農家の第二の収益源や気候変動への対処が期待される営農型太陽光発電について。優良事例や取組む際の注意点を紹介。

農家の第二の収益源や気候変動への対処が期待される営農型太陽光発電について。優良事例や取組む際の注意点を紹介。

営農型太陽光発電は「農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、太陽光を農業生産と発電とで共有する取組」です(出典元:営農型太陽光発電について:農林水産省)。

農地を確保しながら、再生可能エネルギーを行う営農型太陽光発電は、農山漁村への新たな所得機会の可能性が生じているとして注目を集めています。

 

 

営農型太陽光発電の優良事例

農家の第二の収益源や気候変動への対処が期待される営農型太陽光発電について。優良事例や取組む際の注意点を紹介。|画像1

 

農地の上部に太陽光発電設備が取り付けられることから「太陽光が遮断され、栽培品目が限られるのでは」と心配していたのですが、農林水産省がまとめた優良事例には以下のような栽培品目が掲載されています。

  • 葉物野菜(露地栽培、水耕栽培)
  • 果樹
  • 大豆
  • 水稲

荒廃農地を活用してわさびを育てている事例もありました。想像しているよりも幅広い種類の作物が育てられることがわかります。

高収益農業の事例として度々目にするのが、ハウスでの水耕栽培と組み合わせた事例です。

この事例では、太陽光発電の実施で、電気と野菜の安定した収入が得られるようになり、設備投資が可能に。パネル下部で行われる施設栽培で、自動栽培システムや最新式のものなど収益性の高い水耕設備の導入が実現しています。その結果、野菜も収量を増やし、農薬低減を達成するなど、生産効率等の向上にもつながっています。

ある果樹園では、太陽光パネル下で観光農園を経営しています。

パネル下では従来より栽培していたブルーベリーを育てており、育てた収穫物は平均糖度が一般的なものより高く、直径も大玉粒を揃えるなど、高評価を得ています。発電設備を設置したことで日陰が生じ、真夏の収穫作業への負担が軽くなったなどのメリットを挙げている一方、発電設備の支柱が除草作業がしにくくなったというデメリットも挙げています。とはいえ、観光農園の利用者からは日陰があって涼しいと好評を得ていることから、未利用地の再生に一役買うのではと期待できます。

農林水産省が公開する取組事例集は、取り組む前の課題や営農型太陽光発電を取り組むことになった経緯、どのように農業と発電事業が行われているのか、費用なども記載されているので、気になる方はぜひ一度ご覧ください。

営農型太陽光発電の優良事例
営農型太陽光発電 取組事例集(一覧)

ヨーロッパの主要放送局のテレビニュースを伝えるニュース専門放送局「ユーロニュース」によると、欧米では、耕作地に大規模な太陽光発電設備を設置することが一般的になっています。

ドイツ西部のあるリンゴ農園では、果樹園上部にソーラーパネルを設置しています。ソーラーパネルは果樹園に日陰を作るだけでなく、異常気象によってもたらされた暑さの中で豊富な電力を生産しています。

営農型太陽光発電は、土地を有効活用することで第二の収入源を確保できる一方、栽培する作物との適切な組み合わせができないと、作物の品質に悪影響を及ぼし、かえって農家の収益に響く場合もあります。

このリンゴ農園では、そのデメリットを回避すべく、研究者と協力して、ソーラーパネル下で育つリンゴの品種と、果樹園に最適な太陽光発電の屋根の種類をテストしています。

 

 

営農型太陽光発電に取り組む場合、注意したいこと

農家の第二の収益源や気候変動への対処が期待される営農型太陽光発電について。優良事例や取組む際の注意点を紹介。|画像2

 

営農型太陽光発電など、再生可能なエネルギーの生産は、気候変動や食料価格が上昇することへの対処や農業に必要な土地の確保などに役立つことが期待されます。そんな営農型太陽光発電ですが、取り組む場合にはいくつか注意点があります。

まず、発電事業を行う間、太陽光パネルの下部の農地で営農を継続する必要があります。また農地に支柱を立て、その上部空間に太陽光発電設備等の発電設備を設置する場合には、それに当たる支柱について農地法に基づく農地転用許可が必要になります。

太陽光発電設備の設置者と営農者が異なる場合、「民法第269条の2第1項の地上権等を設定する場合には、農地法第3条第1項の許可が必要」とされています(引用元:再生可能エネルギー発電設備を設置するための農地転用許可:農林水産省)。

営農型太陽光発電に興味がある方は、農林水産省の「営農型太陽光発電取組支援ガイドブック(令和4年8月)」に目を通すことをおすすめします。上記のような必要事項、手続き関連は4章「営農型太陽光発電を始めるには(取組フロー)」にまとめられています。

農林水産省が公開している取組フロー(分割ファイル2の11ページ)の一部を以下に記載します。

やるべきことの具体例

農業に関する手続き

発電に関する手続き

営農者 農地転用許可権者 経済産業省
電力会社
発電設備施工業者
1.初期検討 栽培品目等の検討
知見者へ相談(相談窓口の活用)
農地法に基づく一時転用許可が必要 電力会社系統に接続できるか、電力会社に相談 業者探し
2.計画策定 意見書の添付※ 土地の利用状況など現地調査
見積取得
3.各種申請 農地の一時転用許可申請 経済産業省へ事業計画認定申請
4.工事 現地を確認
必要な営農環境を工事会社と共有
周辺農地に影響がないことを確認後、工事契約・工事実施
5.事業開始 営農開始、継続 農地転用許可権者へ年次報告 電力供給開始 工事完了
太陽光発電設備のメンテナンス

参照元:営農型太陽光発電 高収益農業実証事業の概要

※一時転用許可申請時に、適切な営農が行われる見込みがあるかどうか、知見者の意見書を添付する必要がある。

農業に関する手続きとしては、栽培作物の選定など営農計画の策定や農地の一時転用の手続きなどが必要になる場合があり、発電に関する手続きには、電力会社との接続契約の締結、経済産業省への事業計画認定申請など、通常の太陽光発電設備と同じ手続きが必要、とあります。

まずは営農者がやるべきことに記載されている、相談窓口を活用した知見者への相談から始めましょう。

 

参考文献

  1. 営農型太陽光発電について:農林水産省
  2. 営農型太陽光発電の優良事例
  3. 営農型太陽光発電 取組事例集(一覧)
  4. Solar panels provide shade and a second source of revenue for this enterprising German farm | Euronews
  5. 営農型太陽光発電 高収益農業実証事業の概要
  6. 再生可能エネルギー発電設備を設置するための農地転用許可:農林水産省

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