農薬は病害虫や雑草から作物を守るために使われますが、口に入る食品に関わるものだからこそ、多くの人にとって残留の有無や安全性は知りたいテーマの一つなのではないでしょうか。
結論からいえば、農薬が作物にいつまで残るかは、農薬の種類、使い方、作物の種類、収穫までの日数、天候などによって変わります。ただし、日本で登録されている農薬は、使用できる作物、使用量、使用回数、収穫前に使用できる日数などが定められており、その基準を守って使えば安全性が確認される仕組みになっています。また、農林水産省は、使用基準に従って使用すれば安全と判断できる農薬だけを登録しており、登録時には使用できる作物や時期、量などの使用基準を決めています。
作物に使った瞬間から

農薬は、作物に散布されたあと、ずっと同じ量のまま残り続けるわけではありません。作物の表面についた農薬は、日光、雨、風、気温、微生物の働きなどによって少しずつ分解されたり、流れ落ちたりします。また、作物の中に取り込まれた成分も、植物自身の代謝によって別の物質に変わっていくことがあります。
もちろん、農薬の種類によって分解されやすさは異なります。短期間で分解されやすいものもあれば、比較的長く残りやすいものもあります。そのため、農薬ごとに「収穫の何日前まで使ってよいか」「何回まで使ってよいか」といったルールが細かく決められているのです。
作物内に入った農薬はどうなるのか
農薬には、葉や果実の表面にとどまりやすいものと、植物体内にある程度移行するものがあります。
先述した通り、作物内に入った農薬は、そのまま同じ量が残り続けるわけではありません。植物の体内ではさまざまな化学反応が起きています。農薬成分も植物の酵素などによって分解されたり、別の形に変化したりします。た、作物や収穫部位が成長して重量が増えることで、残っている農薬成分の量が同じでも、重量当たりの濃度が低下することがあります。
ただし、どのくらいの速さで農薬が減っていくかは一律ではありません。作物の種類や収穫部位によっても違いがあります。そのため、農薬の登録では、実際の作物を用いた残留試験の結果が重視されます。
残留農薬基準とは
食品に残る農薬については、「残留農薬基準」が定められています。これは、食品中に含まれてよい農薬の上限量です。基準を超えた食品は、原則として流通できません。
まず、食品安全委員会が毒性試験などの結果を評価し、必要に応じてADIやARfDを設定します。ADIは、人が一生涯にわたって毎日摂取し続けても、健康への悪影響が認められないと推定される、体重1kg当たりの一日摂取量です。ARfDは、24時間以内に摂取しても健康への悪影響が認められないと推定される、体重1kg当たりの量です。なお、評価の結果、短期的な影響が想定されない農薬では、ARfDを設定する必要がないと判断されることもあります。
「収穫前日数」は農薬が減る時間を見込んだもの
農薬のラベルには、「収穫前日まで」「収穫7日前まで」「収穫14日前まで」などの表示があります。これは、その農薬を使ってから収穫するまでに必要な期間を示したものです。たとえば「収穫7日前まで」と書かれている農薬は、収穫の6日前や前日に使ってはいけません。なぜなら、農薬が作物内や表面で減っていく時間を考慮し、残留基準を超えないように設定されているからです。
収穫前日数は、単に農薬が自然に消えるまでの時間を示したものではありません。定められた使用量、希釈倍数、使用回数、使用方法などの条件で作物残留試験を行い、その結果が残留基準を超えないように設定された使用条件の一つです。
収穫前日数が経過しても、農薬が完全にゼロになるとは限りません。しかし、ラベルに記載された使用方法を守ることで、残留濃度が食品の基準内に収まるように管理されています。
まとめ

繰り返しになりますが、作物に使われた農薬は、散布後すぐにすべて消えるわけではありません。表面に残ることもあれば、作物内に取り込まれることもあります。しかし、時間の経過、日光や雨、植物の代謝、成長による濃度低下などによって、農薬は少しずつ減っていきます。
また、農薬ごとに使用基準があり、食品ごとに残留農薬基準があります。さらに、毒性評価の指標をもとに、長期的にも短期的にも健康への影響が出ないように基準が設定されています。
生産現場では、ラベルに記載された使用基準を守ることが欠かせません。農薬は、正しく使い、正しく管理されてこそ、作物を守りながら食の安全を支える資材になるのです。
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