身近な食品微生物・納豆菌の農業利用。納豆菌が与える土壌への効果とは

身近な食品微生物・納豆菌の農業利用。納豆菌が与える土壌への効果とは

農作物を栽培する上で欠かせない存在と言えば「土」ではないでしょうか。土壌には農作物を栽培する前から様々な動植物、微生物が存在しています。これら多様性はそのまま土壌の豊かさにつながるといっても過言ではありません。生物多様性、土壌中の生物量を高めることは農作物の生産機能を高めることにもつながります。

従来の農業の発展では、農作物収穫に基づく効率や作業性が重視されてきました。近年食への安心・安全志向が高まりつつあり、効率や作業性ではなく自然に備わった力を重知する農業が注目を集めています。例えば有機栽培や肥料も農薬も使わない自然栽培は、それなりに労力や苦労も伴いますが、消費者のニーズは高まっていると言えるでしょう。そんな中、食品由来の微生物が安心・安全な農業へ貢献すると注目を集めています。そのひとつが今回紹介する納豆菌です。

■納豆菌について

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納豆菌は学名Bacillus subtilis var. nattoと呼ばれる微生物で、バチルス属と呼ばれる枯草菌の仲間です。枯草菌は、稲藁や枯草に棲みついていることからそのような名称で呼ばれます。ワラに自然発生し、納豆という食品に貢献したからこそ“納豆菌”という名称で親しまれているのです。

納豆菌は日本において安全性が確かめられている菌です。微生物がもたらす「発酵」と「腐敗」の定義も、微生物によってもたらされた生成物が、人に益があるか害があるかの違いですから、納豆菌は益のある微生物として評価されているのです。バチルス属は非常に生育力の強い微生物である上、カビなどの糸状菌を抑える働きがあります。そのため古くから農作物の病害対策や生育のために利用されてきました。

 

 

■納豆菌の持つ効果

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先にも書きましたが、納豆菌は非常に生育力の強い微生物です。私も微生物の研究をしていた時、何度か納豆菌にコンタミネーション(実験汚染)され、育てていた菌を台無しにされた思い出があります。今となっては若かりし頃の良い思い出ですが、納豆菌の効果はその生育力の強さだけではありません。カビに対しては、その胞子に取り付き発芽を抑制する働きもあります。また生長ホルモンのサイトカイニン様物質を作り出す働きもあるため、植物の生長にも貢献します。

地球環境への効果への期待も高まっており、納豆の特徴的なネバネバとした糸は、土壌が乏しい地域への農業への貢献も期待されています。納豆の糸はポリグルタミン酸という高分子物質なのですが、この糸に対してガンマ線を照射すると、寒天のようなゲル状の物質へと変化します。
その物質を凍結乾燥させると、白い粉末状の樹脂が出来上がります。

この樹脂は「吸水性(納豆樹脂1gで3L以上の水を蓄えることができる)」「可塑性(外から力や熱を加えると変形し、力を取り去っても元に戻らず、プラスチックと同じ性質を持つ)」「生分解性(微生物が分解すると水と炭酸ガスになるということで、地球環境に優しい素材)」に優れており、砂漠のような地域に活用することで、農業への貢献が期待されています。

 

 

■農業への活用法

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現代の農業へはどのように活用されるのでしょうか。冒頭、土壌中にはさまざまな微生物が存在していると紹介しました。微生物が有機物を分解することで、農作物の栽培に重要な栄養分が用意されています。

この栄養分ができるまでの過程には様々な微生物が作用しているのですが、納豆菌、バチルス属のような菌は生態ピラミッドの中でも数の多い底辺に位置し、大きな有機物を分解するのに大いに役立ちます。彼らの存在が豊富であるからこそ植物が欲する栄養分の大本が分解され、他の微生物がそれをまた分解し…という流れが出来上がるのです。

もし彼らの存在が少なければ、生物多様性の乏しい土壌になると言っても過言ではありません。生物多様性が乏しければ、野菜にも必要な養分が足りず、美味しい農作物にはつながらないでしょう。

有益菌である納豆菌を利用した微生物薬剤は、土壌中の生物多様性に大いに貢献します。実際、バチラス属を利用した微生物薬剤は、農業系薬剤を販売している会社で数多く紹介されています。大きな有機物の分解効率を上げる役割だけでなく植物そのものにも作用し、根の発根促進物質を生成するものもあります。

また地震の影響から放射性物質による土壌汚染も、農業において問題視される課題でありますが、納豆菌によるセシウムなどの放射性物質を取り出して浄化する実験が行われています。研究の発案者である方の推測を以下に記述します。

まずセシウムとよく似たカリウムという物質が、生物にとって必要な物質であり、微生物がこぞって取り込もうとする物質です。納豆菌は、これら微生物同様カリウムを取り込もうとするのですがその力が強く、取り込む際に一緒にセシウムも吸着すると言います。この性質を活用し、被ばくした農地の立て直しにも利用されているのです。

 

 

■納豆菌液肥は簡単に作れる

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ちなみに古くから農業に用いられてきた納豆菌ですが、その生育力の強さが活かされるのが簡単に作ることのできる液肥です。

・用意するもの
純水(またはミネラルウォーター)14.5L
糖(サトウキビ糖やてんさい糖が好ましい) 580g(水の重さの3〜5%)
無調整豆乳 100ml
※豆乳は納豆菌という名前からも分かる通り、大豆原料をタンパク源として好むため利用します。また液肥のため、固形である豆腐や蒸し大豆を利用しないという理由もあります。

1.用意した糖と納豆液(納豆をミキサーで撹拌する、もしくはかき混ぜてザルでこしたもの)を純水にいれる
2.そこへ無調整豆乳を加える
3.納豆菌は酸素を必要とする微生物のため、エアレーション器具と30℃に保てるような温度管理のできるものを用意し、状態を保つ
4.温度と栄養状態が問題なければ12〜16時間後には、納豆菌が十分量増殖し、完了

市販の納豆を利用した微生物製剤ではなく、自作したいという方はぜひ実験してみてください。
 

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