いまさら聞けない農業廃棄物の種類と処分方法。最新の再利用技術も紹介

いまさら聞けない農業廃棄物の種類と処分方法。最新の再利用技術も紹介

農林水産省の資料によると、令和元年度の時点で日本全体の産業廃棄物のうち、約21.1%が農業や林業に由来します。それら「農業廃棄物」には、作物残渣や使用済みの資材、動物由来の排泄物など、さまざまなものがあげられます。

本記事では、農業現場で発生する廃棄物の種類やその処分方法、そして再利用の最新事例について紹介していきます。

 

 

廃棄物の種類

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冒頭でも述べたように、農業現場ではさまざまな廃棄物が生じます。

たとえば、作物の収穫や剪定、家畜の飼育などによって発生する作物残渣(稲わら、麦わら、キャベツの外葉など)や剪定枝・刈草、家畜排せつ物、マルチやハウス被覆材などに用いられる農業用ビニール、肥料・農薬の空き容器、ポリ容器、プラスチック製育苗ポットや支柱などがあげられます。

法律上の分類では、「一般廃棄物」と「産業廃棄物」に分けられ、一定の農業廃棄物は産業廃棄物に該当します。産業廃棄物は適正処理が義務付けられています。以下は、農業で生じる廃棄物を上記2つに分類したものです。

  • 産業廃棄物:廃油、廃農薬、廃プラスチック、ガラスくず、金属くずなど
  • 一般廃棄物(事業系一般廃棄物):作物残さ、紙くず、抜根・剪定枝など

それぞれ保管方法や処理業者への委託義務が異なるため、農業者は適切な区分管理が求められます。

 

 

廃棄物の処分方法について

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無機系廃棄物(プラスチック資材など)の場合

農業用ビニールや使い終えたプラスチック資材などは、焼却処理されるのが一般的です。ただし、こうした廃棄物を適切に処理せずに「野焼き」することは、廃棄物処理法により原則として禁止されています。そのため、農家は市町村の指導のもと、許可を受けた業者に処理を委託する必要があります。

また、農業用資材の中にはリサイクルが可能なものもあります。リサイクル可能なものはJAなどを通じて回収・再資源化が進められています。肥料袋やビニールなどを分別・回収して再利用する取り組みも各地で整備されており、自治体によってはリサイクルにかかる費用への補助制度も設けられています。

農薬の空き容器やその他の危険物などは、産業廃棄物として法的に厳格な管理が求められ、専門の処理業者に依頼する義務があります。なお、農家単独では排出量が少なく引き受け先が限られる場合、JAや出荷組合が共同で回収・処分を行う協議会を設置する例も増えています。

有機系廃棄物(作物残渣や剪定枝・刈草、家畜排せつ物など)の場合

最も一般的な処理方法のひとつは堆肥化です。有機系廃棄物を発酵・分解させ、有機肥料として農地に還元する方法で、土壌改良にもつながりますが、発酵管理が不適切な場合には悪臭や病害虫の発生を招くリスクもあります。

作物残渣においては、これらをそのまま耕うんし、畑にすき込む「土壌還元」も処分方法のひとつとしてあげられます。簡易でコストもかからないことから広く行われていますが、分解が不十分なまま土壌に残ると、病害の発生を引き起こすことがあるため注意が必要です。

そのほか、市町村の処理施設へ自己搬入して焼却したり、市の許可業者や民間リサイクル施設へ剪定枝・刈り草を搬入して資源化処理を行ったりといった方法もあります。

 

 

農業廃棄物の再利用事例

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無機系廃棄物の事例

農業現場で多用されるビニールハウス用のフィルムなど、農業由来のプラスチック廃棄物は再生利用の対象として重要視されています。

農林水産省の資料によると、塩化ビニルフィルム(農ビ)およびポリオレフィン系フィルム(農ポリ・農PO)は、それぞれ再生処理率が7割を超えています。中でも農ポリは熱回収に優れているため、主にサーマルリサイクルの形で再生されており、一部はパレットや擬木などにも加工されています。セメント工場では燃料としても活用され、その灰はセメント原料として再利用されています。

ただし、汚れや劣化、異物混入などの課題も多く、再生処理の効率化が今後の課題とされています。

有機系廃棄物の事例

たとえば、家畜ふん尿をメタン発酵させて「バイオガス化」し、発電や熱利用するシステムが一部の酪農地帯で導入されています。発電によって得られたエネルギーは農場内での暖房や給湯、農機の電力として利用され、余剰電力は売電することも可能です。そのほか、作物残渣などをペレット化し、暖房やボイラー燃料として活用する事例も各地で実証されています。

アップサイクル事例

近年では、「アップサイクル」も注目されています。アップサイクルとはつまり、廃棄物に新たな価値を与える活用方法です。

代表的な事例のひとつに、野菜くずや規格外野菜などの食品ロスを活用したものがあります。大規模な食品加工業者や道の駅、直売所などでは、地元農家と連携し、規格外品をペースト状にして加工食品へ再利用する事例があげられます。

また、国外にはユニークな事例があります。米国のアプライド・カーボン社は、圃場で発生するトウモロコシの芯や茎などの農業廃棄物をその場でバイオ炭に変換できる移動式の熱分解装置を開発しました。酸素を使わず高温で分解することで、廃棄物中の炭素を長期間安定して土壌中に蓄えることが可能です。バイオ炭は炭素貯蔵に優れており、気候変動対策としても注目されています。この技術を導入した干し草農家では、収量が60%も増加したとの報告があり、農業生産性向上にもつながることが実証されています。

カナダと米国を拠点に活動するComet Bio社は、農作物の残渣からできる低カロリー甘味料「Sweeterra」を開発しました。同社は食品廃棄物と栄養不足という二重の社会課題の解決を目指しており、プラントベース食品市場の拡大に対応しながら成長を続けています。

アウトドアブランドKEEN(キーン)は、農業廃棄物をスニーカーにアップサイクルする取り組みを行っています。2007年より展開されている「HARVEST」というシリーズでは、トウモロコシや麦の殻、茎などを植物ベースの素材として靴底に配合しています。靴底の一部を植物由来に置き換えながらも、従来の性能を維持。農業廃棄物が、機能性とデザイン性を兼ね備えた製品になる面白い事例です。

日本国内の地域型モデル

日本国内でも、農業廃棄物を資源として活用する取り組みが進んでいます。北海道下川町では、稲わらや野菜くずといった農業廃棄物からバイオ燃料を製造し、地域の公共施設や民間企業で活用する循環型のエネルギーモデルを構築。さらに、未利用の木質バイオマスも併用し、地域エネルギーの自給自足を目指しています。

 

参考文献:アグリジャーナル編集部『アグリジャーナル 2025年春号[vol.35]』(アクセスインターナショナル、2025年)

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