『ゲノム編集』農作物が普及されるまでの課題とは

『ゲノム編集』農作物が普及されるまでの課題とは

農業分野において注目されている技術に「ゲノム編集」があります。
ゲノム編集を施された農作物が、次々に開発されることが期待できますが、ゲノム編集農作物が普及されるまでにはさまざまな課題を乗り越える必要がありそうです。

本記事では「ゲノム編集」農作物に対して抱かれている懸念材料や、普及されるまでの課題について紹介していきます。

 

 

「ゲノム編集」農作物に危険性はあるのか

『ゲノム編集』農作物が普及されるまでの課題とは│画像1

消費者が最も気にする部分だと思うのですが、「危険性」について懸念の声が挙がっています。
ゲノム編集技術でよく挙げられる懸念材料に「オフターゲット作用」と呼ばれる働きがあります。ゲノム編集では、標的遺伝子を狙って遺伝子を切断することで変化を促す方法なのですが、その際標的“以外”の遺伝子まで切断してしまう作用を「オフターゲット作用」と呼びます。

この懸念材料に関する回答ですが、問題解決策は用意されています。
まず多くの農作物においてDNAの塩基配列が解読されているため、標的遺伝子以外には結合することがないよう、標的遺伝子へ誘導するガイドRNAを構築することができます。
オフターゲット作用が起きないようなガイドRNAの設計が徹底されているということです。もちろんそれでも起きてしまうことはあるでしょう。

しかし品種改良の最終目標は「必要な特徴をもった農作物の開発」です。
オフターゲット作用が起きたところで、それが求めている特徴でない限り、その品種が選ばれることはありません。
もし仮に、オフターゲット作用が生じたもので必要な特徴を得ている農作物が現れたとしても、安全性などを問うその先の試験に合格できなければ世間に広まることはありません。

 

 

生態系への影響を心配する声もある

ゲノム編集は作物自身の遺伝子を書き換える方法です。
遺伝子組み換えと違い、別の生物の遺伝子を入れるわけではないため“自然界に存在しない作物”が生じるリスクは低いと言えます。
ただし、想定外の改変が起きないとは言い切れません。ゲノム編集の研究は隔離された環境で行われますが、「もし生態系に影響を及ぼすような作物ができてしまったら、そしてそれが繁殖した場合には…」という懸念の声もあります。

 

 

「ゲノム編集」農作物の普及に関する課題

『ゲノム編集』農作物が普及されるまでの課題とは│画像2

また普及するという面にも課題が残っています。
米国では、ゲノム編集技術を使った農作物の設計・栽培・販売に規制をかけないことになっています。
規制をかけないことでさまざまな企業がゲノム編集農作物の開発を進めていますが、規制がないことで商品情報を開示する義務もないことから、ゲノム編集作物と通常の作物の区別ができなくなるのでは?という声が挙がっています。

さまざまな会社が、こぞってゲノム編集作物の開発に取り組むのはいいのですが、消費者にとっては「どれがゲノム編集作物で、どれが通常の作物なのか」がわからない不透明さは不安でしかないでしょう。
米国農務省は独自の商品情報開示ルールを作成することにしていますが、区別できないという不安は普及しにくくする要因になってしまうのではないでしょうか。

名古屋大学が2016年で行なったアンケートによると、ゲノム編集作物について「良く理解できず、何となく怖さを感じる」と答えた人が46%にも上ったとあります(消費者3,000人へのアンケート)。

もちろん「怖さを感じない」は39%もいたので、抵抗を感じない人もいるにはいるのですが、ゲノム編集作物に対する消費者の意識は「怖さを感じる>感じない」が現状です。普及させるには、消費者へ正しく理解してもらう必要があります。

なお農研機構では「ゲノム編集について知ってもらう活動」を行なっています。ゲノム編集技術を用いた稲の栽培実験を一般公開することで、ゲノム編集技術の正確な情報を伝えています。

 

 

「ゲノム編集」農作物の研究成果、事例

『ゲノム編集』農作物が普及されるまでの課題とは│画像3

最後に、ゲノム編集農作物の研究事例について紹介します。
筑波大学では、リラックス効果があるとされるアミノ酸の一種「GABA」を多く含むトマトを、ゲノム編集技術により開発しました。

通常のトマトの約15倍の含有量となっています。GABAを合成するGADという酵素があります。普段たんぱく質の構造体に覆われているGADは、ストレスによりカルシウムイオンが過多になると、GABAの合成を進めます。ゲノム編集によりたんぱく質の構造体を除去し、ストレスがない状態でもGABAが合成されるようにしたのです。

理化学研究所をはじめとする共同研究グループは、ジャガイモに含まれる有毒物質ソラニンを発生させない、萌芽を制御できる可能性を発見しました。
ソラニンなどの生合成に関わる遺伝子を同定したのです。これら遺伝子の発現を抑えることができれば、ソラニンが生じないようにできる可能性が浮上したのです。このまま研究が続けば、「うっかり芽が出て食べられなくなったジャガイモ」に遭遇する率が減る、期待の新品種となるのではないでしょうか。

消費者の中には、ゲノム編集技術に抵抗を感じる人も少なくないと思います。
しかし機能性をもった農作物や毒性が抑制される農作物の開発は、決して消費者側にメリットがないものではありません。消費者が抱える不安を取り除くためにも、開発の次段階、普及を目指す場合には、正しい情報を消費者に広く知らせることが重要です。

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