ゲノム編集と遺伝子組み換えって何が違うの?!

昨今、「ゲノム編集」技術が注目されています。まだまだ研究段階の技術ではありますが、農業に限らず、あらゆる業界で注目されています。

しかし「ゲノム」や「遺伝子」といったキーワードに対して不安を抱く人も少なくありません。そこで本記事ではゲノム編集、遺伝子組み換えの違いについて紹介していきます。

 

 

ゲノム編集と遺伝子組み換えの違い

ゲノム編集と遺伝子組み換えって何が違うの?!|画像1

 

品種改良そのものは昔からある

今後「ゲノム編集」技術が多く活用されるであろう「品種改良」。そんな品種改良そのものは昔から行われています。今ある農作物は、美味しく、収量が多く、病気に強い品種が長い時間をかけて選抜され、交配を続けてきたからこそできたものです。

 

ゲノム編集とは

バイオテクノロジーが発展する前の品種改良の難点は「時間がかかる」というものでした。また突然変異を待つ必要があり、望んだ特性をもつ品種が現れるとは限らないのが欠点でもありました。

一方、ゲノム編集は「狙って」遺伝子を改変できるバイオテクノロジーです。

ある生物がもつ全ての遺伝情報を、その生物の「ゲノム」と言います。近年、さまざまな生物のゲノム情報が明らかにされています。その情報から、重要な遺伝子の特定や遺伝子の働きなどが分かっています。「ゲノム編集」は、それらの情報を利用して遺伝子を切ったりつなげたりすることを指します。人工のDNA切断システムを利用し、「狙った」遺伝子だけを正確に「編集」することができます。突然変異を待つのではなく、変異を起こさせることができるのです。

 

遺伝子組み換えとは

一方「遺伝子組み換え」では、従来の品種改良のように交配を繰り返すのではなく、特定の遺伝子のみを組み込む技術を指します。その植物にとって類縁関係ではない遺伝子を組み込むこともできます。これはすなわち、自然界では発生しないことを実現できる、ということです。

 

 

ゲノム編集と遺伝子組み換えの大きな違い

ゲノム編集と遺伝子組み換えって何が違うの?!|画像2

 

先述した通り、ゲノム編集は「狙って」変異を入れることができます。ほぼ確実に、ピンポイントで狙うことができるのが、ゲノム編集の大きな特徴であり、遺伝子組み換えにはできない技術です。

細胞内のDNAは、自然に存在する放射線や化学物質、またDNAの複製においても切断されることが知られています。DNAが切断されたままだと、遺伝子が分断された状態になってしまいますが、細胞内ではDNAが切断されると速やかに修復されることも分かっています。分断されても高い確率で元通りになるのですが、時に修復エラーが起きます。疾患の原因になる可能性もある修復エラーですが、これが品種改良などの原動力となっています。

この特性を活かしたゲノム編集の技術には、DNA切断後の過程によって3つのパターンに分けられます。

  1. SDN※-1
  2. SDN-2
  3. SDN-3

※SDN: Site-Directed nuclease;部位特異的DNA切断酵素

SDN-1は、人工的に切断された部位が自然に修復される他に

  • 欠失 一部の塩基がとれる
  • 挿入 塩基が新たに加わる
  • 置換 別の塩基と入れ替わる

のいずれかが発生するパターンです。

SDN-2は、人工的に切断された部位が自然に修復される他に、細胞外で

  • 欠失
  • 挿入
  • 置換

の変異が施された「DNA断片」を導入するパターンです。

SDN-3は、SDN-2によく似ていますが、導入されるものが「DNA断片」ではなく、加工された「遺伝子」等となります。

最後のパターン「SDN-3」は、従来の遺伝子組み換えの技術に該当する技術とも言えます。新たな機能、例えば同種の交配で得られないような特徴を与えたい場合などには、他生物の遺伝子を導入してゲノムに組み込む必要があります。

ですが、今注目されている「ゲノム編集」の技術、新たな機能を加えるのではなく、ある機能を損失させるだけなのであれば、「SDN-1」のパターンさえあれば十分と言えます。またゲノム編集であれば、従来の遺伝子組み換え技術と違い、どの場所に変異が起こすのか「狙う」ことができるため、変異をコントロールできると言えます。

 

 

今注目されているゲノム編集のメリット

ゲノム編集と遺伝子組み換えって何が違うの?!|画像3

 

ゲノム編集のメリットには、

  • 短期間で品種改良が可能である
  • 生産者・消費者に利益がある
  • 人や環境への悪影響が少ない

などが挙げられます。

特に、従来の品種改良法に比べて「効率がいい」のはメリットと言えます。優良種を交配する品種改良法では、品種改良までに10年かかることも考えられます。しかしゲノム編集なら、狙った部位を切断するだけで変化を生じさせることができます。1〜2年で有用な品種をつくりだすことができるでしょう。

また先で紹介したように、細胞内のDNAは自然界に存在する放射線などで切断されることがあります。確かに「ゲノム編集」では、人の手でゲノムが切断されます。しかし自然界でも、「SDN-1」で得られるような結果は起こりうるのです。そのため、人や環境への悪影響が少ないと考えられています。

 

日本での「ゲノム編集」の扱い

日本では、2018年7月に環境省が「ゲノム編集による品種改良」について検討を開始しました。8月に公表された「ゲノム編集技術の利用により得られた生物のカルタヘナ法上の整理及び取扱方針について(案)」では、SDN-2、SDN-3などの技術は「遺伝子組換え生物等」に該当するとされています。「カルタヘナ法」という遺伝子組換え技術を規制する法律と照らし合わせて出された案です。ただし、SDN-1のような「切断のみで導入していない」場合においては「遺伝子組換え生物等」には該当しないとしています。

 

世界での「ゲノム編集」の扱い

欧州司法裁では、ゲノム編集作物にもGMO(遺伝子組換え作物)規制適用と判断されています。

一方アメリカではゲノム編集農作物の販売がはじまりました。ゲノム編集作物開発を手がけるカリクストが、ゲノム編集によって品種改良された大豆から採取された大豆油を販売しました。販売された「ゲノム編集」大豆油は、人の健康に悪影響を及ぼすと言われている「飽和脂肪酸」の含有量が少なく、トランス脂肪酸が含まれていません。「消費者の健康」を目的としてゲノム編集が行われました。

 

GMO規制が適用される国もあれば、すでにゲノム編集作物を販売している国もあります。しかしゲノム編集を活用することで、今後の人口増加によって考えられる食糧需要を満たすことができるかもしれません。良い面、悪い面が議論され続けているゲノム編集技術に、今後も注目していきましょう。

 

参考文献

  1. ゲノム編集と遺伝子組み換えの違いは? メリットを専門家が解説 AGRI JOURNAL
  2. ゲノム編集の歴史と基礎
  3. 遺伝子組み換えとどこが違う?食卓を魅力的に変える「ゲノム編集」 講談社
  4. ゲノム編集とは何か? 従来の遺伝子治療と何が違う?具体的な実用事例からみる可能性 ビジネス+IT
  5. 史上初、ゲノム編集された“作物”が食卓にやってくる WIRED
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