カモは農業の敵?味方?カモによる食害、合鴨農法のメリット・デメリットについて

カモは農業の敵?味方?カモによる食害、合鴨農法のメリット・デメリットについて

2022年2月9日の毎日新聞に、カモによる食害が取り上げられていました。

長崎・諫早湾干拓地 カモの食害年間3000万円超 農家「頭真っ白」 | 毎日新聞

同記事には、2008年に始まった干拓地での営農で、2015年ごろからマガモやヒドリガモの食害が目立つようになった、とあります。野鳥が好む葉物野菜が多く栽培されていることが原因と見られますが、カモの食害は諫早市だけで年間3000万円超に上り、隣接する雲仙市にも被害が拡大しています。

一方でカモといえば、農薬を使わない農法に合鴨農法があります。これは水稲作に「合鴨」を利用し、雑草の除去や害虫駆除を行う減農薬または無農薬農法です。合鴨農法においては、カモは雑草や害虫を食べてくれる有益な生き物だといえます。

一体カモは農業の敵なのでしょうか、味方なのでしょうか。

 

 

カモについて

カモは農業の敵?味方?カモによる食害、合鴨農法のメリット・デメリットについて|画像1

 

カモ目カモ科の鳥で、日本には30種以上のカモ類が生息していますが、農作物被害を起こすカモ類は主にマガモ、カルガモ、ヒドリガモの3種です。

マガモ

カルガモ

ヒドリガモ

全長

60cm前後 60cm前後 50cm前後

体色

オスは頭が暗緑色、首に白い輪があり、体は灰白色。

メスは全体が褐色の模様。

オス、メスともに全体が茶色系の模様。 オスは頭が赤褐色で、額がクリーム色。体は灰色。

メスは全体に褐色の模様。

嘴の色

オスは黄色。

メスは橙色に黒色斑。

黒色で先端が黄色。 青灰色で先端が黒色。

足の色

赤橙色。 赤橙色。 黒色。

カモは主に植物食で、さまざまな植物の種子や葉を食べます。タニシなどの水生小動物も食べますが、ヒドリガモは植物食の傾向が強いとされています。

ヒドリガモは冬鳥として渡来するカモですが、年間を通して同じ場所に生息する「留鳥(りゅうちょう)」であるカルガモによる食害が目立ちます。

春は、播種直後から播種後1ヶ月以上、種籾や幼苗の籾部を食害します。食害だけではなく、歩行や遊泳によって移植直後の苗を倒伏させる害を及ぼすこともあります。ただし、農林水産省の資料によると「田面に水がなければほとんど飛来しないため、落水期間中の被害はない」と書かれています。

秋は、登熟が隣接水田より進んでいる水田は食害を受けやすいとされています。

冬はヒドリガモによる麦類の若葉への食害が目立ちます。野菜では、カルガモによるキャベツやレンコンへの食害が報告されていますが、マガモやヒドリガモなども加害している可能性があります。

農研機構の実態調査によって判明したこと

2022年11月30日、農研機構が野生のカモ等が水が張られたハス田の泥の中にあるレンコンを食べる様子を初めて確認した、と農業協同組合新聞ウェブサイトにて紹介されています。

農研機構によると、一部のマガモ、オオバ(ツル目クイナ科の鳥類)が、水面下約40cmの深さまで採食することが明らかになりました。

これまでレンコンの食害は、レンコンがハス田の泥中にあること、食害が夜間に生じることから、その様子を確認することができずにいました。収穫の際、泥の中から掘り上げたレンコンにえぐられた傷があり、出荷できなくなる場合があることから、食害を防ぐ方法が模索されていました。防鳥網を設置するなどの対策はとられていますが、カモ等の侵入を完全に防ぐのが難しいだけでなく、野鳥が網にかかって死亡するケースが相次いでおり、防鳥網以外のより効果的な方法が望まれていました。

今回の実態調査で分かったことは以下の通りです。

  • 少なくともマガモとオオバンによる食害を受けること
  • 浅く位置するレンコンが被害を受けやすいこと
  • 被害を受けるハス田が、越冬するカモ等に好適な生息地になっていること

これらをもとに、今後、防鳥網以外のより効果的な防除方法が確立されることが期待されます。

 

 

食害を起こすカモと合鴨農法の合鴨との違いは?

カモは農業の敵?味方?カモによる食害、合鴨農法のメリット・デメリットについて|画像2

 

合鴨は、野生のマガモとアヒルとの交配種です。

体が大きく、飛ぶことができないアヒルと、体は小さいが、飛ぶことができるマガモを掛け合わせたことで生まれた合鴨は、体が小さく、飛ぶことができないのが特長です。

なお、アヒルはマガモを品種改良した鳥で、生物学的にはマガモの1品種です。そのため、マガモの1品種とマガモを掛け合わせた合鴨も、生物学的にはマガモです。

冒頭でも紹介しましたが、合鴨農法はこの合鴨を利用して雑草の除去や害虫駆除を行う農法を指します。加えて、アイガモの肉は畜産物として処理されるので、合鴨農法は畑作と畜産を組み合わせた農法ともいえます。田植えの時期にヒナを放鳥し、稲の収穫後には食肉用として処分されるのが合鴨農法の主な流れです。

食害を起こすカモと合鴨の違いは、食害を起こすか否かではなく、野生か、人間が作り出したカモか、といえます。実際合鴨は、稲が実ると稲を食べてしまいますし、雑草の芽は食べても成長した草はあまり食べないので、田に入れる時期が遅かったり長引いたりすると、合鴨農法としての効果があまり期待できなくなります。

 

参考文献

  1. 長崎・諫早湾干拓地 カモの食害年間3000万円超 農家「頭真っ白」 | 毎日新聞
  2. ハス田の泥中のレンコンを食べる「カモ被害」実態を初めて確認 農研機構|JAcom 農業協同組合新聞
  3. 鳥種別生態と防除の概要:カモ類
  4. 第2回 環境保全型農業における合鴨農法の調査研究報告
  5. 田んぼに入れるのは、どうしてアイガモがよいのですか。

鳥獣被害カテゴリの最新記事