ソバ栽培の現状と課題。日本の生産状況、世界のソバ事情。

ソバ栽培の現状と課題。日本の生産状況、世界のソバ事情。

ソバは乾燥に強いこと、栽培期間が2〜3ヶ月と短いこと、高冷地や地力の低い土地でも栽培が可能なことから、耕作放棄地対策などとして作付けされてきました。

本記事ではそんなソバ栽培の現状と課題について紹介します。

 

 

ソバ栽培の過去と現状

ソバ栽培の現状と課題。日本の生産状況、世界のソバ事情。|画像1

 

古くは全国各地で救荒作物として生産されてきたソバですが、明治後期をピークに生産量は減少していきます。特に1960年代からは輸入が急増し、1970年代後半には国内消費の8割を輸入に依存するようになりました。ですが上記で紹介したソバの特性から、1970年代後半以降は生産が漸増傾向にありました。

そして現在のソバ(乾燥子実)の作付面積及び収穫量は以下の通りです。

(乾燥子実)の作付面積、10a当たり収量及び収穫量の推移(全国)

区分

作付面積
(ha)
10a当たり収量
(kg)

収穫量

(t)

平成24年産

61,000

73 44,600

25

61,400

54

33,400

26

59,900

52

31,100

27

58,200

60

34,800

28

60,600

48

28,800

29

62,900

55

34,400

30

63,900

45

29,000

令和元

65,400

65

42,600

2

66,600

67

44,800

3

65,500 62

40,900

出典元:令和3年産そば(乾燥子実)の作付面積及び収穫量

令和3年産ソバ(乾燥子実)の作付面積は前年産に比べると1,100ha(2%)の減少となりましたが、この要因には「他作物への転換」等が挙げられています。全国の10a当たりの収量は62kgで前年産を7%下回り、収穫量は前年産に比べ3,900t(9%)の減少となりました。この要因には生育期間の多雨による発芽不良等の被害が挙げられています。

加えて、都道府県別の作付面積と収穫量をランキングで表すと、令和2年度においては以下の通りです。

作付面積

収穫量

10a当たりの収量

都道府県名 単位:ha 都道府県名 単位:t 補足(作付面積) 都道府県名 単位:kg 補足(作付面積、収穫量)
1

北海道

25,700

北海道

19,300

滋賀

98

565ha、554t

2

山形

5,320

長野

3,960

栃木

94

3,030ha、2,850t

3

長野

4,600

栃木

2,850

3,030ha

富山

87

517ha、450t

4

秋田

3,980

茨城

2,770

3,510ha

長野

86

4,600ha、3,960t

5

福島

2,770

山形

2,180

群馬

83

587ha、487t

出典元:国内産そばの年次別生産状況(都道府県別、平成25年~令和2年)

ソバ生産が今後大きく減少する可能性も?!

作付面積減少の要因として“「他作物への転換」”が挙げられていますが、NHK秋田放送局で放送されているローカルワイドニュース番組『ニュースこまち』は2022年11月15日に公開した記事で、ソバ生産の危機について紹介しています。

秋田県ではコメに代わる転作作物としてソバの生産が拡大しています。2011年に2549haだった作付面積は、2021年には4240haと、ここ10年で約1.7倍に拡大しました。

コメの消費が減り続ける中で国がコメからの転作を推し進め、中山間地域でも育てやすいソバの生産が拡大していましたが、2022年度から「水田活用交付金」の対象が見直され、2022年度以降、5年間1度も水張りが行われていない農地を交付金の対象から外す方針が決まりました。「水田活用交付金」はコメの過剰生産を抑えるために始まった制度で、転作作物ごとに交付価格が設定され、作付面積に応じて支払われます。ソバは乾燥に強い作物である一方で水に弱く、一度でも農地に水を入れると栽培が難しくなるといわれています。

気候の影響を受けやすく、単価の安いソバは交付金がないと利益を出すのが難しいとされています。また物価高などの影響もソバ農家に追い打ちをかけています。交付金の見直しにより転作を進める農家は少なくありません。コメの価格が下落していることやソバ生産のために排水対策が徹底されていることから、ソバを転作しても水田に戻す農家は少ないとみられ、耕作放棄地の増加が危惧されています。

また作付面積、収穫量ともに全国1位の北海道もまたソバから小麦、大豆への転換が進んでいます。

 

 

世界のソバ事情

ソバ栽培の現状と課題。日本の生産状況、世界のソバ事情。|画像2

 

生産量

ソバは世界各地で食べられている作物です。日本では「蕎麦」として親しまれていますが、たとえばフランスでは「ガレット」(ソバ粉生地を薄く焼いた食べ物)、インドやネパールでは無発酵パンの一種である「ロティ」「チャパティ」「ナン」の材料、ロシアやウクライナでは「カーシャ」といわれるソバ粥として親しまれています。

2020年の国連食糧農業機関の統計によると、世界のソバの生産量の多い国1〜5位は以下の通りです。

  1. ロシア 89万2千トン
  2. 中国 50万4千トン
  3. ウクライナ 9万7千トン
  4. アメリカ 8万6千トン
  5. ブラジル 6万5千トン

日本は約4万5千トンで、世界で第6位の生産量です。

輸入量

冒頭で“1960年代からは輸入が急増し、1970年代後半には国内消費の8割を輸入に依存するようになりました”と紹介しました。

2013年9月に公開された「ソバの需給と製粉業者の仕入・販売行動」によると、日本が輸入するソバは中国産とアメリカ産が大半を占め、中国からの輸入が輸入量全体の約8割、アメリカからの輸入が約2割となっています。2013年の資料には、中国国内の経済成長や生活水準の向上に伴うコスト高と需要高、世界のソバ生産の約半分を占めるロシアが見舞われた2010年の大干ばつの影響による、中国産ソバ価格の上昇について記されています。

2019年12月に公開された「横浜港は、輸入数量・金額ともに 31 年連続 全国第1位! 年越しそばを控え」でも、輸入実績は中国が第1位、アメリカが第2位と不動です。

原産国別輸入実績

国名

数量(トン) 数量の構成比(%) 輸入額(千円)

輸入額の構成比(%)

中華人民共和国

63,159

67.6 3,807,392

62.9

アメリカ合衆国

16,594

17.8 1,532,683

25.3

ロシア

9,690

10.4 447,786

7.4

ブラジル

2,164

2.3 119,573

2.0

モンゴル

1,014

1.1 69,679

1.2

その他

750

0.8 72,428

1.2

93,372

100 6,049,541

100

出典元:横浜港は、輸入数量・金額ともに 31 年連続 全国第1位! 年越しそばを控え

ですが近年、輸入ソバの確保と価格の高騰について警戒が強まっています。

2021年5月17日の日本経済新聞「輸入ソバの実波乱含み 中国産品薄、ロシア産禁輸に」によると、中国は2020年に政府の補助金が出る他の穀物への転作が進み、ソバの作付面積が減少しました。加えて、主産地の中国西北部が干ばつに見舞われ収穫量が落ち、価格も高騰しています。中国産が品薄で価格も高騰したことから、ロシア産に需要が集中しましたが、ロシア国内でソバの価格が上昇したことを受け、ロシアは2021年6月〜8月まで輸出を制限しました。

上記制限は2021年9月1日から再開されましたが、2022年現在、ウクライナ情勢の悪化で、ヨーロッパ諸国がソバの輸入をロシアから中国に変更する事態が起きており、この影響で仕入れ値が上がることも予想されています。なお、ロシアは2022年3月14日に砂糖の輸出とEU加盟国への小麦やトウモロコシ等穀物の輸出を時限的に禁止しています。

古くから親しまれてきた「蕎麦」の価格がこれ以上高騰しないことを願うばかりです。

 

参考文献

  1. 令和3年産そば(乾燥子実)の作付面積及び収穫量
  2. 国内産そばの年次別生産状況(都道府県別、平成25年~令和2年)
  3. 北海道は小麦、大豆へシフト そば作付け減 2021(令和3)年統計2022年4月6日
  4. 国の交付金に揺れるそば農家 – ニュースこまち
  5. 世界のそばの生産がさかんな所をおしえてください。
  6. ソバの需給と製粉業者の仕入・販売行動
  7. 横浜港は、輸入数量・金額ともに 31 年連続 全国第1位! 年越しそばを控え
  8. 輸入ソバの実波乱含み 中国産品薄、ロシア産禁輸に
  9. 砂糖と穀物の時限的禁輸措置を導入、ミシュスチン首相が署名(ロシア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
  10. ウクライナ危機 小麦だけじゃない!ロシア生産世界一のそば、価格高騰のピンチ

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