農業生産において、害虫や病害の防除は収量や品質を左右する重要な課題です。これまで化学農薬に依存した防除が主流でしたが、環境負荷や安全性への配慮から、近年は農薬使用量の削減や環境保全型農業への関心が高まっています。その中で注目されている技術の一つが、対抗性植物、いわゆる「おとり作物」を活用した耕種的防除です。
農業におけるおとり作物とは、害虫をそこへ誘引・集中させることで、主作物の被害を軽減する耕種的防除です。なお、病害においては、根こぶ病で用いられる“おとり大根”のような、特定の作物を作付けして感染を起こしつつ、増殖を進みにくくすることで土壌中の菌密度を下げるといった例があります。
本記事では、おとり作物についての基本的な情報から、その効果の仕組み、害虫別の具体例、さらに効果的に活用するためのポイントまでご紹介していきます。
あらためておとり作物について


前述の通り、おとり作物は、主に栽培したい作物よりも、害虫や病原菌が好む植物を意図的に植えることで、被害を特定の場所に集中させる技術です。英語では「トラップクロップ(Trap crop)」とも呼ばれ、害虫を誘引して捕捉する役割を担います。
この手法の目的は、害虫や病害の発生を完全にゼロにすることではなく、被害を管理可能な範囲に抑える点にあります。被害が集中したおとり作物を除去したり、局所的に防除したりすることで、圃場全体への被害拡大を防ぐことができます。
この防除策は、有機農業や特別栽培など、化学農薬の使用に制限がある体系において、有効な防除手段として位置づけられています。
おとり作物のタイプ
おとり作物はいくつかのタイプに分けられます。
- 害虫を強く誘引するもの
- 土壌病害虫を抑制するもの
- 圃場への侵入を防ぐもの
1つ目のタイプには害虫が優先的に集まるため、害虫の殺虫・除去が容易になります。
2つ目のタイプは根に病原菌やセンチュウを取り込ませることで、それらの土壌中の密度を低下させる役割があります。
3つ目のタイプは背丈が高く、害虫の飛来や移動を妨げる効果があります。
これらのタイプが単独で用いられる場合もあれば、組み合わせて利用されることもあります。
どのように効果を発揮するのか
おとり作物の効果は、害虫や病原菌の「選好性」(複数の選択肢の中から、あるものを他よりも好み、一貫して選択する傾向や性質)を利用して発揮されます。多くの害虫は、特定の植物の匂いや葉質、栄養状態に強く引き寄せられます。主作物よりも魅力的な植物が存在すれば、害虫はそちらに集まり、結果として主作物への被害が軽減されます。
土壌病害虫に対しては、対抗性植物の根が病原菌や線虫を取り込み、増殖を阻害することで効果を示します。これらの植物を栽培後にすき込むことで、土壌中の病原菌密度を低下させ、次作への被害を抑制します。
代表的なおとり作物と該当する害虫・病害


“おとり”となるためには、害虫や病原菌にとって、主に栽培した作物よりも好ましい作物でなければなりません。そのため、防除したい害虫や病原菌に合った作物を選ぶ必要があります。
たとえば、アブラナ科の作物に被害を与える害虫(コナガ・アブラムシなど)に対しては、カラシナやナバナ、ダイコン、キャベツなどが有効とされています。主に栽培する作物(キャベツやハクサイなど)の周囲に、これらのおとり作物を早めに播種・定植します。害虫がおとり作物に集まったところに、薬剤散布やおとり作物を引き抜くなどして処分します。
同じくアブラナ科野菜に発生する根こぶ病対策には、葉ダイコンやエンバクが代表的なおとり作物です。これらをキャベツやハクサイなどの収穫後、または前作として栽培し、おとり作物の根毛に根こぶ病の原因菌を取り込ませます。そうすることで土壌中の菌密度が低下します。なお、ネコブセンチュウに対する代表的なおとり作物にはマリーゴールド、クロタラリア、ギニアグラスがあげられます。圃場の周囲に植えるか、輪作として導入するのが主な活用方法です。
前述した3つ目のタイプの代表例はソルゴーやヒマワリなど。カメムシ類やハスモンヨトウなどの害虫が圃場に侵入するのを防ぎます。
おとり作物を効果的に活用するには


まず、主に栽培する作物よりも早く播種・定植し、害虫にとって魅力的な状態を作ることが重要です。生育が遅れると、十分な誘引効果が得られません。
次に、設置方法の工夫が挙げられます。目的に応じて、間作するのか、前作・後作として利用するのか、はたまた圃場の周囲に植えるのかなど、適切な設置方法を選ぶ必要があります。
また、定期的な観察と管理も欠かせません。害虫の発生状況を確認し、適切なタイミングで刈り取りや除去、防除を行うことで、被害の拡大を防ぐことができます。
加えて、おとり作物だけで害虫・病害菌を完全に防除することはできません。しかし他の防除技術と組み合わせることで、持続可能な農業生産に大きく貢献する技術といえます。
注意点
重要なのは、おとり作物を放置しないことです。害虫が集まった状態で管理を怠ると、逆に害虫の発生源となってしまいます。そうなれば、本来おとり作物によって守られるはずだった作物へと被害が波及するリスクがあります。そのため、適切なタイミングでの除去や処理が不可欠です。
またデメリットとして、畑の一部をおとり作物に割く必要がある、という点についても考慮する必要があります。
とはいえ、おとり作物は、害虫や病害の生態を理解し、それを逆手に取った合理的な防除技術です。化学農薬の使用を抑えつつ、環境や生態系に配慮した農業を実現するうえで、今後ますます重要性が高まると考えられます。
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