国産小麦の生産拡大を支援。重要性高まる国産小麦の現状について。

国産小麦の生産拡大を支援。重要性高まる国産小麦の現状について。

日本は小麦の約9割を外国から輸入しています。日本政府が国家貿易※により計画的な輸入を行っています。

※政府が特定の農産物を独占的に輸出したり、輸入したりすること(引用元:国家貿易|ワードBOX|【西日本新聞me】)。

ほぼ全量を輸入に頼る小麦ですが、小麦の国際価格は、2020年後半から中国の輸入需要の増加や、南米や北米で発生した高温・乾燥、2022年2月に発生したロシアによるウクライナへの軍事侵攻で高騰しています。また世界の人口が増加するに従い、世界的に需要が増加していますが、世界全体の穀物生産量は単収(単位面積当たり収穫量)の向上により増加してきたものの、近年その伸び率は鈍化しているのが現状です。

そんな中、日本国内では食料安全保障や価格安定の両面で国産の重要性が高まっていることから、自治体が相次いで小麦の生産拡大を支援しています。特に、需要が減少傾向にあるコメからの転作を促します。

 

 

日本の小麦の消費量、国産小麦の生産量

国産小麦の生産拡大を支援。重要性高まる国産小麦の現状について。|画像1

 

日本における小麦の1人当たりの年間消費量は増加傾向にあります。コメの1人当たりの年間消費量は1962年度をピークに減少傾向にありますが、小麦は1960年度を100としたとき、2019年度で1.6倍以上となっています。しかし、国産小麦の占める比率は決して高くなく、2019年度の国産小麦の収穫量(103万7,000トン)は国内消費量のおよそ1/6でした。

なお2020年度の国産小麦の収穫量は94万9,300トン、2021年度は109万7,000トンです。

農林水産省が公開する「知ってる?日本の食料事情」によると、日本国内では江戸時代より前から小麦がコメの裏作として日本各地で生産されてきました。

明治以降は、欧米のさまざまな小麦料理が伝わり消費が増えたことで生産が拡大しています。1930年の小麦の自給率は67%で、1940年には過去最高の生産量(179万トン)を記録しています。1945年に終戦を迎えた後は深刻な食糧不足に陥ったため、不足分を輸入で補いつつ、コメと小麦の増産が進められました。それにより、1961年には小麦の生産量が178万トンまで回復したものの、後述する小麦の生産の不安定さなどを理由に生産は減少に転じ、1973年度には20万トン、自給率4%に落ち込みました。

 

 

小麦の生産地

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国産小麦の一大生産地は北海道です。国産小麦の収穫量の約7割を占めています。

小麦は乾燥を好み、湿気に弱い作物です。日本で栽培する場合は、秋に種をまき、翌年の6〜8月に収穫するのが一般的ですが、収穫前に長雨にあたると品質が著しく低下します。小麦の収穫期は梅雨と重なるため、日本で栽培するには不向きな作物といえます。先で“小麦の生産の不安定さなどを理由に生産は減少に転じ”と紹介しましたが、長雨の影響で1963年には平年の半分、1970年には平年の3/4の収量となり、農家の生産意欲の減退につながったとされています。

北海道の畑作地帯では、連作障害を防ぐための主要な作物として小麦が栽培されており、また稲作地帯においてもコメの生産を補う作物として栽培されてきました。加えて北海道の気候は小麦に適しており、梅雨がないこともメリットとして挙げられます。

 

 

小麦への転作を促す自治体の取り組み

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新潟県は需要が落ち込み、加えて近年の米余りによって価格が下落している主食用米の転作先として、自給率が15%程度にとどまる小麦に注目。2022年9月から、県内数カ所で実証実験用の圃場を整備しています。

新潟県の小麦栽培は、昭和初期には3,000ヘクタール以上の作付けがあったとされていますが、先述した梅雨の影響で生育や品質が安定しないことなどを理由に、1997年には小麦の作付面積が0になっていました。しかし近年の消費者の国産志向や県内で地元産小麦を使った加工品作りの取り組みなどから、県内の生産要望が高まりました。2012年産から生産量が再び増え始め、2017年産は60ヘクタール、145トンの生産量に拡大しました。なお、新潟県のホームページによると、2021年産は69ヘクタール、159トンで、増加傾向にあります。加えて2022年9月26日公開の日本経済新聞「コメから小麦、転作を支援 食糧安保で重要性増す」によれば、新潟県内の作付面積は2022年6月時点で100ヘクタールを超え、21年産の収穫時に比べて5割増えた、とあります。

福島県もまた小麦や大豆などへ切り替えるときに出す補助金を2022年度から拡充しています。

福島県の小麦の作付けは伸びています。福島県は2009年から2020年までの小麦の作付面積、収穫量を公開しています。2009年は作付面積が467ヘクタール、収穫量が806トンでしたが、その後作付面積は2015年まで減少し続けます。しかし2015年からは再び増え始め、2015年には作付面積が251ヘクタール、収穫量が436トンでしたが、2019年には358ヘクタール、967トンとなっています。2020年には収穫量は前年と比べてやや減少しているものの、409ヘクタール、928トンとなっています。上記日本経済新聞の記事によると、2021年産の小麦の作付けは20年産に比べ16%増加した、とあります。

とはいえ、小麦の収穫期が梅雨に重なることは、安定生産を難しくします。収穫期の降雨による雨害を防ぐためには、計画的に収穫作業を進め、適切な時期に収穫することが重要です。

また耐性品種を使うことも対策として挙げられます。

収穫期前の降雨により、小麦は「穂発芽」と呼ばれる穂上の種子が発芽してしまう現象が起きます。外観は発芽しているように見えなくても、内部で発芽の過程が始まっている場合もあります。穂発芽が発生し、収穫前に発芽が始まってしまうと、種子に蓄えられた発芽のための栄養(デンプンなどの貯蔵物質)が消化・分解されてしまい、小麦の品質に悪影響を及ぼします。そのため、近年、穂発芽耐性を向上させた品種の開発が進められています。

国産小麦は、需要増加や価格高騰に伴い、関心が高まっています。梅雨のある日本でも栽培しやすい小麦の品種や新たな栽培方法の発展に期待が高まります。

 

参考文献

  1. 小麦はどこの国から輸入(ゆにゅう)されているのかおしえてください:農林水産省
  2. 令和3年産麦類(子実用)の作付面積及び収穫量
  3. 北海道だけじゃない! 全国で広がる国産小麦
  4. その11:小麦の自給率:農林水産省
  5. コメから小麦、転作を支援 食糧安保で重要性増す
  6. にいがたの麦 – 新潟県ホームページ
  7. 【農業技術・経営情報】麦:小麦「ゆきちから」の安定栽培法 – 新潟県ホームページ
  8. 【地方に勝機】新潟県の小麦生産倍増へ 高騰下でコメから転作 農業法人が挑戦 (1/2ページ) – 産経ニュース
  9. 麦編 雨害、穂発芽
  10. 麦編【1】 麦作のための土作りと播種前の準備作業

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