農機転倒事故に注意!農作業死傷事故の発生状況と転倒事故を防ぐための取り組み

農機転倒事故に注意!農作業死傷事故の発生状況と転倒事故を防ぐための取り組み

2023年6月23日、日本農業新聞は「農機転倒の恐怖を体感 岡山の販売会社が製作」という記事を公開しています。

倉敷河上農機株式会社が製作した「トラクター転倒体感機」は、その名の通り、トラクターが転倒する様子を体感できるものです。少しでも事故を減らそうという思いから製作され、事故の怖さを体感することで、安全対策の徹底を図ります。

 

 

農作業死傷事故の発生状況

 

農林水産省は、全国の農作業に伴う死亡事故の発生実態とその原因などを把握することを目的に、年間の農作業死亡事故について調査を行なっています。

令和3年に発生した農作業死亡事故件数は242人で前年より28人減少したとありますが、要因別にみると「農業機械作業に係る事故」が171人、全体の70.7%と高い状態を示しており、農業機械作業に係る死亡事故の要因の多くを「機械の転落・転倒」が占めています(84人、49.1%)。

また農林水産省は、都道府県、農機具販売業者などから収集した農作業死亡事故、負傷事故の情報を発生月毎に集計し公表しています。

令和5年2月には8件の農作業死傷事故のうち、農業機械作業に係るものが6件、うち3件はトラクターの転落・転倒によるもので、2名の死者が発生しています。

令和5年3月には15件の農作業死傷事故のうち、農業機械作業に係るものが12件、そのうち農業機械の転落・転倒に係るものが8件、5名の死者が発生しています。

農作業死傷事故の事例

農業機械の転落・転倒は例年、以下の3つの場面で多くの事故が発生しています。

  • 圃場への出入り
  • 幅の狭い農道の通行
  • トラックへの積み込み・積み下ろし

実際に発生した事故の事例として多くあげられるのが、圃場への出入りする際に発生する事故です。

  • 圃場の侵入路の入り口周辺が草で覆われており、草で覆われた路肩を踏み外して転落した
  • 初めて入る圃場で圃場の状況確認を怠り、段差によって横転した
  • 路面の状態が悪い場所での通行でバランスを崩し、横転した

などの事例があります。

また疲れを押して作業を続けたことで集中力が途切れ、ハンドル操作ミスや速度超過で農道から脱輪して転落、骨折したという事例もあります。

運悪く転落・転倒した農機の下敷きになってしまい、重症または死亡したケースも少なくありません。

 

 

転倒・転落事故を防ぐために

農機転倒事故に注意!農作業死傷事故の発生状況と転倒事故を防ぐための取り組み|画像2

 

農作業現場の改善に努める

まず可能であれば、転落・転倒のおそれがある危険箇所を事前に確認し、その箇所の補強を行なったり封鎖したりすることで、危険箇所を回避することが重要です。農機が円滑に通行できるよう、十分な広さの通路を確保するために以下のことに取り組みましょう。

  • 路肩が分かるように草刈りを行う
  • 危険箇所には棒や柵を設置する
  • 水路の橋や渡り板は踏み外さないよう幅に余裕をもって設置する
  • 転倒や機械の破損を防ぐため、通路内の障害物は極力取り除く
  • 路面の状態を整えるため、路面のくぼみや水たまりを砂を撒いたり使い古しの敷物を敷くなどして埋める

上記対策が難しい場合には、危険箇所を迂回することも重要です。

農業機械の特徴にも配慮する

農業機械の特徴を捉え、転落・転倒のリスクを回避することも重要です。たとえば田植機は重心が高いため、転落・転倒のリスクが高いです。作業機はできる限り下げ、分担荷重が大きい側をなるべく傾斜の山側にするなど、農機の重心にも配慮しましょう。

傾斜地で旋回する場合には、速度を落として行いましょう。速度を落とさず旋回すると、遠心力により横転する可能性があります。

農機の操作方法や危険箇所をあらかじめ把握することも重要です。機械によって、操作方法やエンジンの停止方法は異なります。事前に確認しておくことで、異常が感じられたり、万が一事故が発生した際に、迅速な対応が可能になります。

農機の取扱説明書は、機械の中に収納するか、携帯工具と一緒に持ち歩くなど、何かあった時にすぐ確認できるような場所に置いておきましょう。

また、機械に異常を感じた際は、点検を行う前に必ずエンジンを停止してください。点検中、エンジンを停止しなかったことで機械が稼働してしまうと、重大な事故に巻き込まれる可能性が高まります。エンジンを停止してから点検することを習慣づけましょう。

シートベルトの着用・ヘルメットの着用

安全意識を高めることは、万が一事故に遭った場合の死亡率を減らすことにつながります。シートベルトの着用は死亡率を1/8に減らすことができます。

安全キャブ・フレームが付いたトラクターの場合、万が一、転落・転倒が起きた際、安全キャブ・フレームが安全域を確保してくれます。その安全域に留まるためには、シートベルトの着用が必要です。下記資料に転落・転倒した際、安全キャブ・フレームがどのように働くかを示す図が掲載されています。ぜひ一度確認してください。

令和4年度農作業安全に関する基礎的な研修 (基本資料)

なお、同資料ではトラクター等の交通事故による死亡者数の割合(平成27年から令和元年まで)をシートベルト着用の有無で比較しています。シートベルト着用ありの死亡者数が3人である一方、シートベルト着用なしの死亡者数は148人です。シートベルト着用の重要性が身にしみます。

頭部を保護するために、ヘルメットも着用しましょう。

作業を行う際は、体調を最優先する

農機による事故に限りませんが、疲れによる集中力の欠如は事故の原因となります。早め早めの休憩をとることを心がけましょう。

現場改善チェックリストのススメ

農研機構は農作業の安全対策と労働負担軽減対策の指針となる「農作業現場改善チェックリスト」とその解説を作成し、公開しています。情報が公開されたのは2001年1月とやや古いですが、なぜその対策を行う必要があるのか、どうやって対策を行うべきかなどの情報がわかりやすく記されています。

重大な事故に遭う前に、ぜひ確認してください。

農作業現場改善チェックリスト

 

参考文献

  1. 農機転倒の恐怖を体感 岡山の販売会社が製作
  2. 令和5年春の農作業安全確認運動の展開について
  3. 令和3年に発生した農作業死亡事故の概要
  4. 農作業死傷事故の発生状況:農林水産省
  5. 令和5年度農作業安全に関する基礎的な研修 (基本資料)
  6. 事故当事者が感じたキーワード
  7. 令和4年度農作業安全に関する基礎的な研修 (基本資料)
  8. 【C1】円滑に通行できるよう に充分な広さの通路を確保しま す。

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