世界の人口増加、新興国の所得上昇、都市化の進展とともに、食料の需要は確実に拡大しています。たとえば、 経済協力開発機構(OECD)と 国際連合食糧農業機関(FAO)が共同で発行する『Agricultural Outlook』によれば、農産物・水産物を含む食料・農業市場では、今後10年程度の展望として「人口増、所得上昇、都市化に伴い特に新興国・中所得国で食料需要が拡大する」と結論づけています。この報告は、世界的な食需要の拡大要因として人口・所得・都市化を挙げており、政策立案の基礎資料として広く用いられているものです。
一方で、生産体制・資源(農地・水・労働力・資本)・気候変動・政策・流通インフラなどの制約があるなかで、供給がその需要に十分に追いつくかについては懸念されています。厳密な数字は文献により異なりますが、前述した『Agricultural Outlook』では、世界全体の食料消費(食品の需要)は年約1.2%の増加率で推移すると予測され、農業・水産生産の総利用(生産)は年約1.0%前後の伸びが見込まれる、という示唆が含まれています。これはすなわち、需給ギャップを表すものといえます。
このように、需要拡大と供給増加のペースのズレは、食料安全保障の観点から、あるいは国際価格・輸入依存度、農業体制の改革・投資という観点から、世界的にも重大な課題です。特に、海外で需給が逼迫すれば輸入価格が上昇・供給が滞る可能性があり、輸入依存度が高い国・耕地面積の限られた国・農業担い手が高齢化している国ではリスクが大きくなります。
このような世界的な需給ギャップを前提にすると、日本の農業・食料自給という側面も、改めて見直す必要があるのではないでしょうか。
日本の食料自給率および需給ギャップ


日本では従来から「食料自給率(カロリーベース)」が低水準にとどまっており、たとえば農林水産省が公表する「食料自給率(カロリーベース)」は38%です(「令和5年度(公表:2024年8月) 」)。すなわち、国内の消費カロリーのうち約6割以上を輸入に頼っているという構図です。さらに、需要と供給のギャップという観点で言えば、「20 年時点では需要が供給を513万トン上回り、40年までに723万トンに拡大」という数字が示されています(参照元:日本経済新聞)。
このように、輸入で補っている分野が更に拡大する見通しです。国内農業において、今のままでは需給ギャップが広がるリスクがあります。
担い手と農地の現実
担い手(農業就業人口・後継者)や農地面積の減少、高齢化、農地分散・小規模化が進んでおり、構造改革・規模拡大・効率化が課題となっています。日本経済新聞の記事では、「農家の高齢化が進んで担い手が不足していく。農地を再編して大規模化し、稼げる農業に変えないと食料安全保障を脅かす可能性がある」と指摘されています。さらに、農地そのものの縮小や休耕・転作の増加によって、耕作可能な農地が実質的に減少していることも、長期的には供給力低下の根底要因といえます。
将来予測とその意味
こうした現状を踏まえると、国内生産が横ばい~減少傾向にあるなかで、輸入依存が進み、国内の「食料安全保障」という観点から脆弱性が拡大するという構図が見えてきます。特に、世界的な供給不安・気候変動・地政学リスクによって、輸入の停止や遅延、価格高騰といったリスクが高まる可能性があるため、国内で食料を確保する能力を高めることがより重要になっています。
また、需給ギャップが拡大しているなかで、国内農業がその供給増に応じられないということになれば、「輸入増→外貨・物流リスク」「国内農業衰退→地域・雇用・環境の課題拡大」という負の連鎖につながる恐れがあります。逆に言えば、国内農業を改革・強化できれば、リスク低減だけでなく、新たな成長機会ともなり得るわけです。
コメで見る実情


国内において、特にコメを例にとると、実情が分かりやすく浮かび上がってきます。
減反政策・生産抑制の影響
日本では長く、余剰米を防ぐための 減反政策(減反=減反作付)や転作補助金制度が行われてきました。たとえば減反政策は1970年代以降に導入され、米の作付面積を調整して過剰生産を抑えることを目的とした政策でした(2018年に制度上は廃止)。複数の専門家・論考は、長期の生産調整政策が生産インセンティブや規模拡大の動機を弱めた可能性を指摘しています。
とはいえ、これは多因的な問題(高齢化、労働力不足、地域差、技術導入の課題など)と重なっています。
大規模化・効率化を阻む構造
日本の米農業では、農家の数が多く、小規模・家族経営が中心、かつ兼業・副業型も多いため、規模の経済を生かした大規模生産・省力化・機械化という流れが他国に比べて遅れてきました。さらに、政策による保護・価格維持・作付制限などが改革を抑制していたという分析もあります。
また、農地の分散・高齢化・担い手不足が、設備更新・機械導入・ICT活用といった先端化の障壁となっています。
中小規模経営体にできること


では、個人農家や中小農業法人は、こうした「世界の需給ギャップ」「国内農業の課題」の中で、どういった立ち位置をとるべきなのでしょうか。
大規模化=企業だけのものではない
確かに、大規模農場・企業農業・投資マネー参入といった動きが注目されますが、中小規模経営体であっても「圃場を集約する」「機械を共同利用する」「出荷・流通組織を組む」という仕組みをとることで、実質的な規模拡大・効率化は可能といえます。
たとえば、地域内での農地集約・隣接圃場の統合、機械や作業を共同で導入・利用、地域の出荷・販売ネットワークを組む、といった方法です。これにより、設備コスト・作業負担・流通コストを分散・低減できます。
地域連携・機械共有・出荷組織化で効率性を高める
個人経営・家族経営という体制でも、次のような戦略が有効です。
- 農地の再編・集約:休耕地や遊休農地を活用して複数経営体で集約し、転作・兼業の見直しを図る。
- 機械・省力化設備の共同利用:トラクター・コンバイン・ドローン・ICT機器などを地域でシェア、導入負担を軽減。
- 出荷・販売の共同化/ブランド化:地域の産品をまとめて出荷する、付加価値を付けてブランド化・直販化を図る。
- 効率化と差別化の両輪を回す:単に生産量を増やすだけでなく、付加価値(有機、ブランド、旬・鮮度、加工品)や流通効率を高める。
世界的な需給ギャップは国内の農業にとってリスクでもチャンスでもある


世界的な食料需給のギャップ、つまり、消費の拡大ペースが生産増加ペースを上回るという構図は、単なる開発途上国の問題ではなく、輸入依存度が高く、農業構造が課題を抱える日本にとっても重大なリスクですが、同時にチャンスでもあります。
海外で高まる生産コスト・物流リスクや気候変動リスクを背景に、国内生産の価値が見直されつつあるからです。こうした流れを取り込むために、効率的で収益力のある農業経営への転換が重要視されています。
参照元ウェブサイト






























