農業への投資事例から学ぶ、効率化と収益性向上のヒント

農業への投資事例から学ぶ、効率化と収益性向上のヒント

OECD(経済協力開発機構)とFAO(国連食糧農業機関)の統計によると、世界の食料消費量は新興国の人口増加を背景に毎年約1.2%ずつ伸びています。一方で、農作物の生産量は1%増にとどまり、需要が供給を上回る「食料ギャップ」が拡大しているのが現状です。

この難題をビジネスチャンスと捉えたのが世界中の投資マネーです。近年、金融機関や保険会社などが農地や農業法人に資金を投入する動きが活発化しています。

その潮流の中で、注目されるのがナッツや果樹農園への長期投資モデル。カナダの大手保険会社マニュライフグループ(以下、マニュライフ)は、金融機関などから集めた資金をアーモンドやピスタチオの農園に投資しています。同社は「耕す量を減らす効率的な農法」を採用。これらにより作業負担や水・肥料の使用が削減される事例が報告されています。

このような海外の成功事例は、規模こそ大きいものの、その根底にある発想や効率化の工夫は、日本の中小規模の農家にも多くのヒントを与えてくれるものです。

 

 

耕す量を減らす効率的な農法とは

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マニュライフが投資する作物のアーモンドは、水や気温の管理が難しく、通常は大規模灌漑設備や重機を用いた耕起作業が欠かせません。しかし、マニュライフの運営する農園では、耕す回数を減らす「部分耕起(リデュースド・ティレッジ)」を採用。必要最小限の土壌管理にとどめ、地力を維持しながら労働負担と燃料費を削減しています。

さらに、ドリップ灌漑(点滴灌漑)を組み合わせることで、水の使用量を最適化。作物の根元に直接水を与える方式は、蒸発や流出による無駄を防ぐと同時に、肥料の溶出も最小限に抑えられます。結果として、農薬や肥料の使用量も減り、環境負荷とコストの両面で効果を上げました。

この取り組みにより、農園全体の栽培コストは従来比で約2割削減。生産性と利益率を同時に高めることに成功しています。また、耕起を減らしたことにより機械稼働時間が減り、結果的にCO₂排出量の削減にもつながったといわれています。

また、マニュライフは単なる生産活動にとどまらず、農園を金融商品として運用する仕組みを整備しています。投資家からの資金をもとに設備投資を行い、販売利益をリターンとして分配するモデルは、金融の視点から見た「新しい農業経営」の形といえます。

 

 

日本の中小規模への応用は?

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こうした海外の取り組みを聞くと、「大規模だからできる」と感じる人も多いはずです。しかし、アーモンド農園の成功要因を分解すると、日本の個人農家でも取り入れられる要素が少なくありません。

(1)省力化技術の導入

第一に挙げられるのは、耕起回数の削減。圃場を細かく耕すほど、燃料や人件費、機械のメンテナンスコストが増えます。しかし実際には、作物や土壌の性質に応じて「耕さない」方が地力を保ち、収量が安定するケースも多いとされています。部分耕起や不耕起栽培を試験的に導入すれば、作業時間の削減とコスト低減が両立できる可能性があります。

また、小型機械の活用も有効です。トラクターや大型コンバインの導入が難しい中小規模の農家でも、歩行型耕運機や電動アシスト式の収穫機を使えば省力化が進みます。小型機械は初期投資が抑えられ、メンテナンス費用も少なく済みます。

さらに、点滴灌漑システムの小規模導入も注目に値します。ビニールハウスや果樹園など限られた面積でも、ポンプとチューブの簡易的なシステムで実現可能。センサーを使った自動制御装置を組み合わせれば、水と肥料の無駄を大幅に減らせます。

(2)スマート農業の「部分導入」

近年、ドローンやAI、センサーを活用したスマート農業が注目されています。ただし、すべてを一度に導入するのは難しいため、一部分から段階的に取り入れることをおすすめします。たとえば、ドローンによる空撮データを使って生育のムラを可視化する、ハウス内の温湿度データをスマートフォンで管理するなど。導入は少しずつ、小さな一歩から始めることが重要です。

一度にすべてを導入できなくても、スマート農業技術を取り入れることにより、いわゆる「経験と勘」に依存しないデータ主導の判断が可能になります。肥料の撒き過ぎや水やりのタイミングを見直すだけでも、コスト削減効果は実感できるはずです。

(3)投資資金が限られる場合の段階的戦略

大規模ファンドのように潤沢な資金を持たない場合でも、段階的な投資計画で効率化は実現できます。たとえば、

1年目に圃場のデータ収集を行い、
2年目に点滴灌漑を導入、
3年目にスマート機器を一部導入――といった具合に、少しずつ範囲を広げていきます。

こうした積み重ねが、最終的に、労力とコストを最小化しながら利益を確保する経営につながります。スマート農業技術の導入と同じく、重要なのは、一気に変えようとせず、試行錯誤を繰り返す姿勢です。

 

 

効率化が生き残りの鍵に

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海外の投資主導型農業は、資本の力を背景に急速に効率化を進めています。オーストラリアでは1990年代以降、農家数の減少と規模拡大が進み、より大規模で生産性の高い経営体が収益の大半を占めるようになったといわれています。投資マネーが流れ込むことで、非効率だった農地が再編され、生産体制が刷新されていったからです。

一方、日本では、農家の高齢化と担い手不足が進み、農業全体の生産力は低下傾向にあります。国内の人口構造や消費変化、農地減少など複合要因によるものですが、日本の米生産は過去数十年で減少しました。国内生産を立て直すには、効率化と収益性向上の両立が不可欠といえます。

もちろん、日本の農家がいきなり大規模化を目指す必要はありません。大規模化した事例も含めさまざまな事例から、限られた資源で最大の成果を上げる発想を学ぶことが重要なのではないでしょうか。

 

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