近年、水稲栽培においてイネカメムシ類による被害が各地で問題となっています。イネカメムシによってイネの穂が吸汁加害されると「斑点米」(吸汁の痕が黒色または茶色くなり、斑点ができた玄米)となります。斑点米の発生は品質低下に直結し、農家経営に大きな影響を及ぼします。一方で、化学農薬への依存だけでは防除が難しくなりつつあり、薬剤抵抗性や環境負荷への懸念も高まっています。
こうした背景から注目されているのが、イネカメムシの天敵を活用した防除です。本記事では、イネカメムシの主な天敵とその役割を整理するとともに、イネカメムシ被害を抑えるための天敵昆虫の具体的な管理方法について解説します。
イネカメムシの主な天敵(捕食者)


イネカメムシは水田生態系の中で多くの捕食者に捕食されています。
代表的な天敵として挙げられるのがクモ類です。水田内外に広く生息するクモ類はイネカメムシの成虫・幼虫を捕食します。クモ類の活動時間帯はイネカメムシの活動時間帯と重なりやすく、捕食者としてイネカメムシに対し高い影響力を及ぼします。また、カエル類やトンボ類、カマキリなどの肉食性昆虫も重要な捕食者です。
捕食者に加えて、寄生性天敵もイネカメムシの個体数抑制に寄与します。寄生性天敵とは、主に昆虫の卵や幼虫に卵を産み付け、幼虫が寄主(害虫)の体内外を食べて成長し、最終的に殺すものを指します。代表的なのが寄生バチ類です。寄生バチはイネカメムシの卵や幼虫に寄生し、発育を阻害します。これらの寄生性天敵は目立ちにくい存在ですが、長期的には個体群密度の抑制に重要な役割を果たします。
イネカメムシの天敵を増やす方法


これらの天敵生物は水田周辺の多様な環境に依存しており、単一の水田内管理だけでなく、畦畔や周辺環境を含めた保全が天敵維持の鍵となります。
畦畔管理
畦畔管理は天敵保全の基本です。天敵を定着させる目的においては、草刈りは時期を分散させる「部分草刈り」や「交互刈り」が有効です。これにより、天敵が避難・再定着できる場所を確保できます。また、草丈を完全に低くしすぎず、ある程度の植生を残すことで、天敵の餌資源や隠れ場所を維持できます。
バンカー植物の設置
バンカー植物とは、天敵が定着・増殖するための拠点となる植物のことです。水田周辺にイネ以外の植物を意図的に残す、または植栽することで、天敵が安定的に生息できる環境を作ります。これにより、イネカメムシの発生初期から天敵が機能しやすくなり、被害の抑制につながります。
天敵が好む環境の維持
上記2つの内容と重複する部分でもありますが、イネカメムシから作物を守るうえで、天敵生物が生育しやすい環境を維持することはとても重要です。
クモ類や寄生バチは多様性のある環境、水田、畦畔、周辺草地、水路といった異なる環境が連続して存在する環境を好みます。天敵の生息を安定させるためにも、水田周辺は過度に整地せず、小規模な自然構造を残すことが、結果的に防除効果を高めることにつながります。
天敵に配慮した農薬選定
天敵を活かした防除には、IPM(総合的病害虫・雑草管理)の考え方が欠かせません。IPMとは、化学防除だけに頼らず、耕種的防除や生物的防除を組み合わせる手法です。
すべての害虫を天敵のみで防除することは極めて難しく、化学合成農薬を使用しなければならない場面もあります。しかし、化学合成農薬の影響は薬剤の系統により大きく異なるうえ、たとえば前述した寄生バチ類は農薬感受性が高い傾向にあるため、農薬の使い方次第で容易に減少してしまう点に注意が必要です。農薬を使用する場合、天敵への影響が少ない薬剤を選択し、必要最小限の散布にとどめることが重要です。
おわりに


イネカメムシ防除において、天敵は即効性のある「特効薬」ではありません。しかし、長期的に見れば被害を安定して抑え、農薬依存を減らす重要な存在です。
また、イネカメムシの防除において、単に「天敵を増やせばよい」わけではなく、生態系全体のバランスを考えることが重要だとされています。たとえばコロナ禍以前の記事ではありますが、日本経済新聞によると、「化学肥料や農薬を使わない有機栽培や農薬を半分以下に抑えた水田において、従来の栽培方法よりも多くの動植物が確認でき、イネの害虫の天敵(アシナガグモ属のクモとトノサマガエル属のカエル)の個体数においては2〜2.5倍程度増えた」とあります。
畦畔管理、農薬選定などを組み合わせることで、水田生態系全体を活かした防除が可能になります。天敵を「守り、増やす」視点を取り入れることが、これからの持続的な稲作に求められています。
参照サイト






























