ゲノム編集によって低アレルゲン化に成功!?ゲノム編集農作物が、今後の食にもたらす効果

ゲノム編集によって低アレルゲン化に成功!?ゲノム編集農作物が、今後の食にもたらす効果

病害虫に対する抵抗性をもった品種や本来の生育温度帯以外でも育つことができる品種など、さまざまな特性をもった農作物が増えています。

農作物は元々、自然界にあった植物の中から食べやすい種を選択し、かけ合わせを繰り返すことで出来た、いわば品種改良の賜物とも言える存在です。

そして昨今、そのような改良技術のひとつとして注目が集まっているのが「ゲノム編集」です。遺伝子改変技術のひとつである「ゲノム編集」。本記事ではゲノム編集農作物について着目し、今後の食に期待される効果について紹介していきます。

 

 

ゲノム編集農作物とは

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まずゲノム編集について解説します。
わかりやすく説明すると、狙いを定めた塩基を人工的に欠損させたり置換させることができる技術です。

”狙いを定めた塩基”には、その植物に関する情報が詰まっています。

仮に小さいが高糖度のトマトがあったとしましょう。高糖度のトマトは甘く美味しいのがウリですが、そのトマトの特性として大きく育てることができないという欠点があります。

例えばこの「高糖度になる場合には大きく育たない」という条件を縛り付けている情報を欠損、または置換させることで「高糖度で大型のトマト」をつくりだすことができる技術、これがゲノム編集です。

狙いを定めた塩基を人工的に欠損、置換させる場合には、DNAを切る役割をもつ「制限酵素」などを、細胞中のゲノムに導入します。

従来の品種改良では交配や接木などの方法がとられてきました。現代では、新たな育種技術として分子生物学的な手法も開発され続けており、ゲノム編集もそのうちのひとつなのです。
分子生物学的手法は非常に効率的な品種改良を行うことができます。

特にゲノム編集は狙った遺伝子だけをピンポイントに置き換えることができる技術です。もちろん本記事後半で記述するように、イレギュラーな置換が起こる可能性も否めませんが、開発されたゲノム編集技術が繰り返し再現されれば、効率的な品種改良技術としてより活用されることでしょう。

 

 

ゲノム編集によって低アレルゲン化に成功!?

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ゲノム編集農作物の事例を紹介します。

北海道大学と京都大学、パナソニックの研究グループはアレルギーが起きにくい大豆を開発しました。

大豆アレルギーは大豆に含まれるアレルゲンタンパク質が原因です。アレルゲンタンパク質は味噌や納豆などの発酵食品の場合分解されることがわかっていますが、発酵しない食品(豆腐や煮豆など)にはそのまま残ってしまいます。

研究グループは、アレルゲンタンパク質のもととなる遺伝子の機能を破壊すれば、アレルギーが起きにくくなると考え、研究を行いました。ゲノム編集を施した大豆からは、アレルゲンをつくる遺伝子が働かなくなった粒が確認されています。

 

 

ゲノム編集について不安視されていること

2018年8月7日、日本では「ゲノム編集」における「DNAの一部を切り取って消す」という技術は、従来の遺伝子組み換え技術に該当しないと示しました。

これはあくまでも狙った遺伝子を切断するだけに限りますが、新たに遺伝子を導入しない場合にはカルタヘナ法※の規制対象外になるという考え方です。カルタヘナ法が適用されないことで、ゲノム編集の産業利用、農作物の研究が進めやすくなるという利点があります。

しかし環境や健康への安全面を懸念する声も少なくありません。

また世界的に見ると、日本とは対照的な判断を下した国も少なくありません。

欧州では「ゲノム編集技術を使って変異誘導を導く品種改良は遺伝子組換え生物と同様の規制対象とするべき」という見解を発表しています。

先で紹介した日本の論点のように、外来遺伝子を導入しない場合においての議論が進められてきましたが、ここでの判断は「外来遺伝子を導入するしないなどが問題ではない」「遺伝子改変による環境、健康面でのリスクを考えるべき」となりました。

この欧州の判断では、ゲノム編集は「組替え体」と同じ枠組みであり、同じ規制対象を受ける、ということになります。なお放射線や化学物質による変異誘導技術は、長い間活用されてきた技術として規制対象外となっています。

 

オフターゲットのリスクはどうか

狙った遺伝子をピンポイントに操作できる「ゲノム編集」の懸念材料には、もうひとつ代表的なものがあります。それが「オフターゲット」です。標的以外の部位を誤って切断する可能性のことです。オフターゲットのリスクはこれまでも多く指摘されてきましたし、その対応策も発表されています。

しかし2018年7月16日、Nature Biotechnology誌(電子版)に「標的部位のすぐ近くで、予想外の塩基配列の消失、別の配列が組み込まれる可能性を示唆する論文」が掲載されています。
標的部位近辺で起こるオフターゲットについて示唆する論文は珍しく、話題となりました。先でも紹介した通り、このような論文が発表されると救済策も必ず発表されます。しかし環境や健康に対する議論はおざなりにするわけにはいきません。今後も慎重に議論を続ける必要はありそうです。

 

 

今後期待されること

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ゲノム編集技術に対して不安を抱える人は決して少なくありません。
しかしゲノム編集は従来の品種改良技術に比べると圧倒的に効率が良いと言えます。今後もさまざまなゲノム編集農作物が登場し、農業従事者が抱える生産における悩みを解消していくことでしょう。

例えば名古屋大学と神戸大学の研究グループは、ゲノム編集トマトの研究・開発を行なっています。この研究グループは、ゲノム編集によって糖度の高いトマトを開発しました。通常の栽培方法でも糖度の高いトマトを収穫することができます。

高糖度トマトは特別な栽培方法によって生産することができますが、水の管理の難しさや収量の低下が課題となっていました。しかしこのゲノム編集トマトは、葉から果実へ糖が流れるようにゲノム編集を行なっただけで、通常の栽培方法で高糖度トマトが得られるようになりました。

ゲノム編集技術が発展すれば、高糖度トマトの事例のように生産の省力化が期待できるだけでなく、魅力的な品種を栽培することへのハードルが低くなることが期待できます。

特別な技術が必要だった品種が、通常栽培で育てられるようになれば、異業種からの就農者獲得のハードルも下がるのではないでしょうか。

ゲノム編集に対して向けられる懸念材料についても理解する必要はありますが、新しい技術として今後の発展を期待したいですね。

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