農薬を使わない湯温消毒法。湯温消毒の仕組みとその効果

農薬を使わない湯温消毒法。湯温消毒の仕組みとその効果

 

昨今、食に対する安全・安心志向が高まっています。消費者の中には「体に良さそう」というイメージから「オーガニック」や「有機栽培」と表示されている商品を購入する人も少なくありません。それらの商品を購入する消費者全員が「オーガニック」や「有機栽培」が意味することを理解しているわけではないようですが、そのような製法がセールスポイントになることは確かでしょう。

そこで本記事では、消費者が関心を抱くであろう「農薬を使わない」、水稲種もみの消毒法についてご紹介していきます。

 

 

水稲種もみの湯温消毒とは

農薬を使わない湯温消毒法。湯温消毒の仕組みとその効果|画像1

 

日本農業新聞によると、東京農工大学などの研究グループが、水稲の種もみの防除効果を高める手法として「65度の温湯消毒」を実用化しました。種もみは、病気の原因となるカビや細菌に汚染されていることがあります。そのため、種まきの前に消毒する必要がありますが、この方法により農薬を使う必要がなくなります。そのため、減農薬栽培につなげることができるのです。

 

湯温消毒とは

従来の湯温消毒とは「60℃のお湯に10分間種もみを漬ける」という方法です。

  1. 十分に乾燥した種もみを袋詰めする
  2. 60℃10分間(または58℃15分間)浸漬処理する
  3. 浸漬処理後、ただちに冷水で冷却する
  4. 浸種・催芽・播種にうつる

用意する種もみですが、袋詰めする際には入れすぎないことが重要です。袋に入れすぎてしまうと温度管理が難しくなります。そのため、大量に消毒処理する必要があっても、いっぺんに処理しようとはせず、少しずつ行うことを心がけましょう。

また、すぐに浸種・催芽にうつらない場合には、水分が15%以下になるよう乾燥させ、冷暗所に保管しましょう。

湯温消毒を成功させるポイントは「温度と処理時間を守る」です。

 

 

湯温消毒の仕組み

農薬を使わない湯温消毒法。湯温消毒の仕組みとその効果|画像2

 

種もみを消毒する理由は、カビや細菌による病気の発生を防ぐためです。カビや細菌に汚染されている可能性のある種子を消毒することで、種もみが伝染源となる病気の発生を抑えることができます。

従来の消毒法では農薬が用いられていましたが、熱水や蒸気を用いた消毒方法は、カビや細菌などの微生物を不活性化させるのに効果的です。熱処理で用いられる温度は65〜100℃とさまざまです。例えば80℃10分間の処理では、芽胞※を除くほとんどの細菌、ウイルスを、生物に感染できない水準まで死滅または不活性化することができます。

ここで「滅菌」と「消毒」についても説明させてください。「滅菌」というのは、すべての微生物が対象となり、全てを殺滅するか除去するための方法です。一方「消毒」は対象となる微生物の数を減らすことが目的です。滅菌とは違い、全ての微生物を殺滅することはありませんが、消毒により病気が発生しない水準まで殺滅または減少させることができます。

先で挙げた「80℃10分間」の処理は、消毒法の1つとしては最適ですが、種もみの湯温消毒には適していません。80℃という高温で不活性化するのは微生物だけではないからです。80℃の高温に浸漬すると、種もみもダメになってしまいます。そのため、従来の種もみの湯温消毒では「60℃10分間(または58℃15分間)」と定められており、「温度と処理時間を守る」ことが徹底されてきました。

※芽胞とは

一部の細菌が、増殖に適さない環境になったときに形成する、耐久性の高い特殊な細胞構造。熱・薬剤・乾燥などに強い抵抗力を示し、長期間休眠状態を維持できる。増殖に適した環境になると発芽して菌体に戻る。
出展元:コトバンク デジタル大辞泉

 

注意点もある

病気の原因となる微生物を殺滅、減少させる湯温消毒ですが注意点もあります。冷却後すぐに浸種させない場合、水分量15%以下になるように乾燥させないと、カビが生える可能性があります。また農薬による消毒法と違い、消毒後の感染には無防備な状態です。カビや細菌から守るために湯温消毒したのに、乾燥が甘かったり、病原菌等と接する機会があったりすると、意味がありません。注意しましょう。

 

保存期間

湯温消毒後、しっかり乾燥させた種もみであれば、15℃以下の低温化で3ヶ月程度保存が可能です。ただし、基本的には早めに浸種・催芽・播種にうつることが重要です。

 

 

湯温消毒の効果

農薬を使わない湯温消毒法。湯温消毒の仕組みとその効果|画像3

 

湯温消毒を行うことで、農薬の使用量が下がることと、農薬の廃液処理のコストがかからないといった利点があります。

また「65度の温湯消毒」であれば、60℃では防除しきれなかった病害から種もみを守ることができます。従来は「湯温が60℃を超えると種もみが耐えられない」と考えられていましたが、研究グループによって「種もみの水分含量を通常(14%)から9.5%ほどに下げることで高温耐性が高まる」ことがわかりました。穀物乾燥機で水分含量を下げた種もみは「65度の温湯消毒」に耐え、その結果、防除効果が高まりました。

なお、湯温消毒に弱いと言われていたもち米などの品種も、同様の方法で湯温消毒したところ90%以上の発芽率を維持しています。

 

参考文献

  1. 水稲種もみ温湯消毒 65度で防除効果向上 事前乾燥 発芽90%以上 農工大、サタケなど 日本農業新聞
  2. 湯温消毒
  3. お湯でイネの種子消毒
  4. 農薬を使わない湯温消毒法について教えて下さい。
  5. 消毒方法 消毒・滅菌の概要 日医雑誌122巻10号
  6. 湯芽工房の使い方・温湯消毒の諸注意 タイガーカワシマ

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