日本国内での栽培面積が広がる熱帯果樹の栽培基礎知識②国内で一般的な果樹と熱帯果樹の違い。

日本国内での栽培面積が広がる熱帯果樹の栽培基礎知識②国内で一般的な果樹と熱帯果樹の違い。

熱帯果樹の中には、温帯の日本で栽培するのが難しいものもありますが、近年、その栽培面積は拡大しています。たとえば平成の時代に流行・定着したとされるアボカドは、2020年時点ではその5年前の7倍と栽培面積を大きく広げました。

熱帯果樹の栽培体系については、果物ごとの特性もあるため一概にはいえませんが、それでも日本国内で一般的な果樹との間には共通点や相違点があります。

本記事では、その違いについて紹介していきます。

なお、本記事では熱帯果樹と亜熱帯果樹を一部、一括りにして解説しています。

 

 

果樹の特徴

日本国内での栽培面積が広がる熱帯果樹の栽培基礎知識②国内で一般的な果樹と熱帯果樹の違い。|画像1

 

果樹と一括りにした場合、その特徴として永年性作物に分類されることがあげられます。

果樹栽培では同一の個体を使って数十年間栽培を続けます。果樹は長い期間にわたって植え替えの必要がなく、栽培、収穫を続けることができますが、成長する過程で花芽をつけない時期があります。

果樹は通常、接木によって繁殖した苗木を植えますが、植えてから数年間は花芽をつけない期間があります。または意図的に果実をつけさせず、栄養成長※が行われることもあります。この期間は「幼木期」と呼ばれます。このように果樹栽培を始めてからすぐに果実生産を行えるわけではありません。

初めて果実をつけてから(初成りという)数年間の「若木期」は、果実は成るものの、やや品質にばらつきが見られる時期です。徐々に品種特有の性質が安定的に示されるようになり、安定的な果実生産が可能になります(盛果期)。

※栄養成長については下記の記事を参照してください。
今さら聞けない、栄養成長と生殖成長について。 – 農業メディア│Think and Grow ricci

一般的な果樹(温帯果樹)の1年間

冬、1月中頃に「自発休眠」から覚めますが、まだ気温が低いため「他発休眠」を続けます。自発休眠は、生育に適した環境条件であったとしても成長が停止した状態のことを指します。一方、他発休眠は成長を停止している点は同様ですが、生育に適した環境条件になれば成長を再開する状態を指します。

気温が上がり、徐々に休眠から覚めていく中で、3月上旬には根の伸長が始まります。なお、根の伸長は春から夏にかけて伸びる「春根」と秋の間に伸びる「秋根」があります。「春根」には茎や葉の成長に必要な養分を吸収する役割があります。

3月下旬から4月中旬に芽が出て開花します。それに続いて新鞘の伸長などの栄養成長が行われます。新鞘伸長は6月下旬から7月上旬に停止して、停止後の6月下旬から8月中旬に花芽の形成が始まります。なお、春に開花した花は受精、結実して、果実の肥大が始まります。新鞘の伸長が停止する頃、春根の伸長も停止し、果実は急激に肥大します。

8月下旬に果実が成熟した後、再び根の伸長が始まります。これは「秋根」と呼ばれ、来年の生育に必要な養分を吸収して貯蔵する役割があります。秋根の伸長は12月中旬頃まで続きます。一方、地上部は冬の寒さに耐えるため9月頃から自発休眠に入り、10月下旬頃に最も深い休眠期となります。葉に蓄えられた養分は枝や幹などに流れ、葉は落ちます。

その後、自発休眠から覚め、他発休眠に入り、生育に適した温度になったら芽を出し……を繰り返します。

 

 

熱帯果樹の特徴

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「温帯」「熱帯」ときくと、熱帯果樹の耐暑性が高い印象を抱きます。確かに、熱帯・亜熱帯植物が生長するのに適した温度は20〜30℃といわれており、熱帯果樹の種類ごとに異なるものの、耐寒性もあまり高くありません。ですが、実際には低温害より、夏の高温が問題となることがわかっています。

あまりに気温が高すぎるのは苦手

たとえば、樋口浩和「熱帯果樹の栽培生理学研究 とくにチェリモヤとマンゴーを中心に」(熱帯農業研究第5巻2号 p.179〜182、2012年)で取り上げられているチェリモヤは、気温上昇によって気孔の開き具合が急激に低下する傾向にあり、光合成速度が低下することや30℃で生育したことによって葉肉細胞やクロロフィルが少なく成り葉が厚くなるといった高温下での反応を記しています。

また初夏のハウス環境など気温30℃以上の条件下では、着果率が低く、花芽の分化や発達が抑制されることも示されています。

ただし、チェリモヤやパッションフルーツなど「亜熱帯果樹」は、高温条件では光合成速度が低下するものの、上記で紹介した研究以前の報告では、マンゴーなどの「熱帯果樹」の場合は、高温条件下でも光エネルギーを獲得する機能が高まったとあります。

低温条件が重要となるものも

高温条件下に強い果樹もありますが、案外、常に気温の高い状態を保たなければならないわけではなく、むしろ花芽の誘導のために低温条件が重要となる果樹もあります。

熱帯果樹の花成の誘導・開花は大きく以下の2つに分類されます。

無季性果樹:生育に良好な環境であれば年中開花する。バナナ、パパイア、グアバなどがあげられる。
定季性果樹:ほぼ決まった時期に開花する。

実は熱帯果樹の多くは定季性果樹に分類され、これらの熱帯果樹は先述した<一般的な果樹(温帯果樹)の1年間>で紹介した樹体の1年間の動きのように、低温や乾燥といった環境の変化を受けて新鞘伸長が停止し、花成が誘導されます。

そのため、熱帯果樹によって、1年を通じて大きな温度変化がない地域で生産されるものか、季節的変化のみられる地域で生産されるものかで、樹体の生育や果実生産に必要な環境条件が異なります。

 

参考文献:荻原勲『図説園芸学』(朝倉書店、2020年)

参照サイト

(2024年4月12日閲覧)

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