コメは世界の30億人以上の主食とされ、特に熱帯アジアやアフリカでは需要が急増しています。そのため、経済発展や人口増加に伴い、今後さらに消費量が増えると予測されています。その一方で、近年、生産量の伸びは停滞しています。
そんな中、近年注目されているのが「再生二期作」という水稲の多収栽培技術です。
本記事では、「再生二期作」とは何か、その仕組みやメリットについて紹介していきます。
「再生二期作」とは
再生二期作とは、イネの収穫後に残る切り株から再生する茎(ヒコバエ)を育て、同じ圃場で2回目の収穫を行う栽培方法です。
「二期作」と「再生二期作」の違いについて
二期作は、主に温暖な地域で行われる農業手法で、同じ土地で同じ作物を1年に2回栽培して収穫するものです。イネの場合、通常の二期作では、1回目の収穫後に再度田植えをする必要があります。
一方、再生二期作では植え直しが不要なため、省力化とコスト削減が可能になります。
古くからあった技術
再生二期作の技術は以前から存在していましたが、従来は低収量とされていました。しかし近年、温暖化によって春と秋の気温が上昇したことでイネの生育期間が延び、高収量を実現できる条件が整いつつあります。加えて、再生二期作が再注目される背景には、品種改良や栽培技術が進歩していることもあげられます。
再生二期作の注目ポイント
再生二期作向きの品種
再生二期作に適した品種として注目されているのが「にじのきらめき」です。農研機構によると、この品種はコシヒカリに似た食味を持ちつつ、高温障害に強く、コシヒカリより15%多い収量が見込めます。
再生二期作では、稲刈り後も再び稲穂が実る特性が重要であり、にじのきらめきはこの条件に適しています。
一度の田植えで二度の収穫が可能となるため、生産者の負担軽減にもつながります。
収量を確保するポイント
再生二期作の収量確保には刈り取りの高さや施肥量の調整が鍵となります。
福岡県で実施された「にじのきらめき」を用いた再生二期作の試験では、10アール当たり約950キロの収量を達成しています。この際、示された重要なポイントは以下の通りです。
一番穂を地際から40センチと高く刈ることで、二番穂の成長を促進する
施肥量を通常の2〜3倍に増やす
茨城県水戸市では、2024年に初めて再生二期作が実施されました。4月に田植え、8月と10月に2回収穫を実施。再生二期作に成功した品種は「にじのきらめき」で、1回目に600キロ、2回目に90キロ収穫されました。
参照元:コメ2回収穫「再生二期作」 「にじのきらめき」で収穫↑ 田植えは1回だけ【詳細版】
ただし、収量の安定には栽培環境の影響が大きいことが知られています。先行研究によると、再生二期作の収量は一期作の平均43%と低めです。一方で、ミャンマーの研究事例では一期作の88%と収量が比較的高いことが知られています。このことについては、ミャンマーで栽培されるコメの品種や、北部が温帯、中部から南部にかけて熱帯で高温多湿なミャンマーの栽培環境が、他の地域に比べて再生二期作に適しているという可能性が考えられています。
参照元:再生稲(ひこばえ)による節水型水稲作付け体系の構築に向けて Toward the establishment of a water savi
地域ごとの環境適応性を考慮した栽培技術の確立が今後の課題とされています。
消費水量について
再生二期作のメリットには二度収穫できるほかに、消費水量が減少することもあげられます。従来の二期作に比べて、消費水量が60%減少することが報告されています。
再生二期作の課題・注意点
再生二期作は、温暖化の進行に伴う高温条件を活かした農業手法ですが、その導入にはいくつかの課題と注意点があります。
まずは生産性の課題です。再生二期作では一期作の刈り取り後、二期作目の出穂までの期間が極めて短く、再生茎の葉数が少なくなるため、生産性が低下する可能性があります。また前述した通り、再生二期作の収量はどうしても一期作よりも低くなります。
地力維持と経済性の両立も課題としてあげられます。再生二期作は長期的に見ると、土壌への有機物還元が減り、地力が低下するといった懸念があります。収量を確保するためのポイントでも記しましたが、「施肥量を通常の2〜3倍に増やす」など、追加の肥料施用が必要になる場合があります。さらに、農機の燃料代などのコストが増加する可能性も指摘されており、経済的な持続性を考慮した計画的な運用が求められます。
また、病害虫の影響も見逃せません。再生二期作では、収穫後の稲株が水稲栽培における害虫・イネカメムシの生息場所となりやすく、被害の拡大が懸念されています。
さらに、寒冷地域で導入する際には慎重な対応が必要です。通常の二期作も再生二期作も、温暖な地域に向いています。温暖化の影響により、寒冷地域でも導入しやすくなったといえますが、二期作目の収穫期に気温が低下すると、生育不良や成熟不足による収量減少のリスクが高まります。そのため、地域ごとの気候条件を考慮し、適切な品種選定や収穫時期の調整が重要となります。
さらなる発展に期待
再生二期作は、温暖化の影響を逆手に取った農業手法として、今後の発展が期待されています。前述したように再生二期作の導入にはさまざまな課題・注意点がありますが、労働力や資材コストの低減と多収の実現に貢献する技術として期待されています。
今後の研究による、温暖化の影響を活かした持続可能な稲作技術のさらなる発展に注目です。
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