工芸作物とは、加工を前提として利用される作物の総称で、食品や繊維、染料などの原料として広く活用されています。代表的な工芸作物は以下の通りです。
- 砂糖の原料となるテンサイ(サトウダイコン)やサトウキビ
- 食用油の原料となるナタネ
- こんにゃくの原料となるコンニャクイモ
- 畳の原料となるイグサ
- 綿製品の原料となる綿花
- 染料の原料となる紅花など
一方、特用林産物とは森林や原野で産出される産物のうち、一般的な木材を除くものを指します。代表的な特用林産物は以下の通りです。
- キノコ類
- 山菜類
- 竹
- 樹実類(栗・クルミなど)
本記事では、国内におけるこれらの作物の生産状況についてご紹介していきます。
工芸作物の生産
工芸作物は地域ごとに適した環境で栽培される「適地適作」によって品質を確保し、特産物として生産されることが一般的です。たとえば、茶は静岡県、イグサは熊本県、こんにゃくは群馬県、テンサイは北海道、サトウキビは鹿児島県といったように、特定の地域での栽培が盛んです。
しかし、近年は輸入品の増加や国内の生産環境の変化により、一部の工芸作物の自給率が低下しているのが現状です。
自給率低下の背景
国内生産の減少
たとえば茶の栽培面積は、2012年の39,600haから2022年には30,800haへと減少しており、家庭で急須を用いたお茶の消費が減っていることが背景にあります。工芸作物の一つであるタバコの作付面積も2020年には6,000haとなり、2015年比で24%減少しています。これは、喫煙率の低下に伴う需要減が影響しています。
輸入品との競争
また、工芸作物の多くは輸入品との競争にさらされています。たとえば、ナタネの自給率は1%以下で、輸入に大きく依存しています。
気候変動の影響
他の農作物同様、気候変動による気温上昇や病害の発生増加といった課題もあり、これに適応した品種改良や栽培方法の見直しが必要とされています。加えて、農業従事者の高齢化や労働力不足が進む中、機械化やスマート農業の導入が求められています。
今後期待されること
海外市場への展開や高付加価値化
一方で、海外市場への輸出が伸びている例もあります。緑茶の輸出は、2005年には1,000tを超え、2010年には2,232tにまで増加しました。特に、アメリカや台湾、シンガポール、ドイツなどでの日本茶の需要が高まっています。
また、前述した通り、ナタネの自給率は1%以下となっているものの、地域特産品としての付加価値を高める動きもあり、国産ナタネを活用した特産品の開発やブランド化が進められています。
代表的な工芸作物の生産現況
茶(緑茶)
令和5年産の荒茶生産量は6万8,000tで、前年産に比べ3%減少しています。なお、静岡県が国内生産の約40%を占め、次いで鹿児島県、三重県が主要産地となっています。
参照元:令和5年産茶の摘採面積、生葉収穫量及び荒茶生産量(主産県)
ペットボトル緑茶の普及により、茶葉の輸入量は増加傾向にありましたが、近年の国産志向の高まりを受け、2004年をピークに輸入は減少しています。また、日本の茶葉の自給率は90%以上と比較的高く、国内生産が支えられています。
加えて、世界的な緑茶ブームの影響により、輸出量が増加傾向にあります。2022年には過去最高の輸出額(約219億円)を記録しました。主な輸出先はアメリカ、台湾、 ドイツなどで、全輸出額の半分以上がアメリカへの輸出となっています。
テンサイ(サトウダイコン)
テンサイは北海道を中心に生産されている、日本の畑作農業の重要な作物の一つです。令和5年の作付面積は5万1081haで、前年産から4,101ha減少しています。2023年は記録的な猛暑や褐斑病の影響で糖分含有率が低下し、これによってテンサイ糖の生産量も減少(44万7,537t)することとなりました。
テンサイの国内生産の課題には、他の農作物同様、農業従事者の減少や労働力不足があげられます。また一部の農家では他品目への転換が進んでいるのが現状です。
サトウキビ
サトウキビは沖縄県や鹿児島県の南西諸島で生産され、国内の砂糖生産において重要な役割を果たしています。令和5年の収穫面積は2万2,700ha(前年より500ha減)、収穫量は118万2,000t(前年産比7%減)となっています。
特用林産物の生産
特用林産物は林業を営む山村の貴重な収入源であり、古くから人々の生活を支えてきました。特にキノコ類は日本の食文化に深く根付いており、国内外で需要が高い品目の一つです。
そんな特用林産物の市場は、1990年代以降、木材需要の低迷や山村の過疎化・高齢化とともに変化しています。とはいえ、林業産出額全体は減少傾向にあるものの、特用林産物の産出額は2000億円規模で安定して推移しており、一定の市場規模を維持しています。
特用林産物の生産現況
キノコ類
キノコ類は特用林産物の中でも最も産出額が大きく、総産出額の約80%を占めています。2023年の食用キノコ類の生産量は43万5,892tで、前年に比べ5.1%減少しています。
なお、キノコの生産方法は大きく原木栽培と菌床栽培の2種類に分かれます。
栽培方法 | 特徴 | 主なキノコ |
原木栽培 | ナラやクヌギなどの原木に菌を植え、自然環境で育成 | シイタケ、マツタケ |
菌床栽培 | おがくずに菌を植え、温度・湿度管理された施設内で育成 | エノキタケ、ブナシメジ、マイタケ、ナメコ |
原木栽培のシイタケは風味がよく、高値で取引される一方、生産には時間と手間がかかるため、生産者が減少しています。実際、シイタケ生産者は2000年の5.7万戸から2022年には1.2万戸まで減少しました。
一方、菌床栽培は効率的に大量生産が可能なため、近年は市場の主流となっています。
また、新たな市場開拓として高付加価値キノコの生産も進んでいます。菌床栽培技術の発展により、ホンシメジ、ハタケシメジ、ヤマブシタケ、タモギタケなどの新顔キノコが市場に登場し、消費者の健康志向や国産志向を背景に、スーパーや外食産業での取り扱いが増えています。
山菜類
日本の伝統的な食文化の一部として親しまれている山菜類の中で代表的なものには、タラノメ、コゴミ、ウド、ワラビ、ゼンマイなどがあります。春の山菜シーズンになると市場での需要が高まります。
2023年の主な山菜の生産量は以下の通り。
品目 | 生産量(t) | 前年比 |
ワラビ | 649 | +24.6% |
タラノメ | 107 | -9.3% |
乾ゼンマイ | 15 | -6.2% |
なお、タラノメやコゴミ、ウドなどの山菜類は、促成栽培が盛んです。たとえば、タラノメは自然界では春にしか収穫できませんが、促成栽培では冬季に市場に出荷できます。そのため、天然ものの山菜が市場に出回る前に収穫・販売することで高価格で取引される傾向があります。また、冬季に出荷されるものは正月商戦の目玉商品として人気があります。
一方で、森林資源の活用として天然山菜の採取も行われていますが、近年は森林への入山者の増加に伴い、ルールを無視した乱獲が問題となっています。山菜の持続的な生産を確保するため、適切な管理や規制が求められています。
まとめ
工芸作物においては、輸入品との競争に対抗するための付加価値の向上やブランド化、気候変動に対応するための品種改良や技術革新が、今後の生産の鍵となりそうです。
また特用林産物においても、新たな品種開発や環境負荷の少ない生産技術の導入が持続的な生産・発展の鍵となることが期待されます。
参考文献: 八木宏典『図解知識ゼロからの現代農業入門 最新版』p.116〜119(家の光協会、2019年)
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