植物や微生物の香り成分を活用した病害・虫害抑制研究について

植物や微生物の香り成分を活用した病害・虫害抑制研究について

近年、持続可能な農業生産の観点から、化学的に合成された農薬に依存しない病害、虫害防除技術の開発が求められています。そんな中、植物や微生物の香り成分が病虫害抑制に活用できるという研究論文を見つけました。

 

 

きのこ栽培後の廃菌床に期待されること

植物や微生物の香り成分を活用した病害・虫害抑制について|画像1

 

きのこの栽培方法の一つに菌床栽培があります。菌床栽培ではおが粉と米ぬかを混ぜた「培地(ばいち)」を使ってきのこを栽培しますが、きのこを収穫した後の菌床、廃菌床のほとんどは廃棄されています。

やや昔のデータになりますが、平成28(2016)年の日本における食用きのこの生産量は45.7万トンで、菌床重量の25%をきのこ収量として換算した場合、廃菌床の排出量は最大で年間約 180 万 t と見積もられます。廃菌床の活用法として田畑や果樹園に撒くといった事例はあるものの、大部分は廃棄物として扱われているのが現状です。

そんな中、鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝資源研究センターの大﨑久美子らの研究より、食用きのこが生産する揮発性物質が植物病原菌に対して抗菌活性を示すことが報告されています。

ブナハリタケやブナシメジが生産する1-phenyl-3-pentanoneや 2-methylpropanoic acid 2,2-dimethyl-1-(2-hydroxy-1-methylethyl)propyl esterという揮発性物質が植物病原菌、特にキャベツ黒すす病の発病を抑制します。ただし、ブナハリタケが生産する1-phenyl-3-pentanoneには独特な強い香りがあり、資材化を進める際には脱臭処理等の必要性が検討されます。

大﨑久美子・小谷哲生・石原亨『シイタケおよびブナシメジ廃菌床から放出される揮発性物質によるキャベツ黒すす病抑制効果』(日本きのこ学会誌Vol. 26(1) 28-31、2018年)では、国内での排出量が多いシイタケおよびブナシメジ廃菌床が利用されました。

各廃菌床を敷き詰めたポリ容器内に、キャベツ黒すす病菌胞子を接種したポット植えのキャベツ苗を入れ、密封して2日間処理を行ったところ、各廃菌床の割合5g/L、2.5g/L、1g/Lにおける発病抑制率は以下のようになりました。

5g/L

2.5g/L

1g/L

ブナシメジ廃菌床

78.7±9.5%

74.9±7.7%

28.4±2.8%

シイタケ廃菌床

78.4±14.2%

66.5±11.2%

71.6±0.4%

シイタケ廃菌床の方が少量の処理でも効果があることが分かりました。

とはいえ、大崎久美子・尾谷浩・石原亨『きのこの香り成分および廃菌床を利用した病害防除資材の開発』(殿業および園芸第 95巻 第7号、2020年)によると、ブナシメジの培養ろ液からは放出される揮発性抗菌物質のジエチルエーテル抽出液は、キャベツ黒すす病菌だけでなく、ナス灰色かび病菌、キュウリ黒星病菌、キュウリ炭疽病菌の胞子発芽を抑制したとあります(それぞれ100%、80%、90%、70%抑制)。

廃菌床を活用する際の注意点

廃菌床は培地成分によっても異なりますが、シイタケ廃菌床は一般的にC/N比が高く、pHが低い傾向にあります。C/N比は炭素率とも呼ばれ、農業で使用する有機質肥料に含まれる炭素と窒素の量を比率で表したものです。 C/N比の値が低いほど窒素含有量が多く、高くなると窒素含有量が少なくなります。

C/N比は堆肥の腐熟度の目安となります。島根県農業技術センターの報告によると、シイタケ、マイタケ等の廃菌床を堆肥化した際、堆積後4ヶ月まではC/N比が50以上と高い値を示しましたが、6ヶ月経過すると25程度まで低下しています。植物の発芽を阻害する物質の濃度が低下するのにも6ヶ月程度を要したことから、廃菌床を堆肥として活用するには6ヶ月程度の堆積期間が必要です。

なお、同報告によると、露地野菜に施用する菌床堆肥の適量は10a当たり2t〜4tが適量とあります。

 

 

植物の防衛戦略を活用する

植物や微生物の香り成分を活用した病害・虫害抑制について|画像2

 

植物は自分自身を守るため、さまざまな戦略を持っています。最も分かりやすい事例には毒を蓄えたり、トゲを作ったり、表皮組織を硬くすることなどが挙げられます。また植物に害を与える害虫を忌避させる防衛手段だけでなく、食害を受けてから防衛を始める手段もあります。

近畿大学や京都大学はある植物の機構に着目し、研究を行っています。その機構とは、食害を受けると揮発性の物質を放出し、害虫の天敵を呼び寄せるというもの。たとえば近畿大学では、植物が放出する化学物質に注目し、植物のにおいと天敵を使った害虫防除を試みています。近畿大学の研究結果によると、食害を受けた植物の有無ではなく、におい成分だけで天敵が引き寄せられるとのこと。人工的に作成したにおい成分が天敵誘引剤として活用できることが示唆されています。

 

参考文献

  1. ブナハリタケ(Mycoleptodonoides aitchisonii)が生産する1-phenyl-3-pentanoneの植物病原糸状菌に対する抗菌活性
  2. きのこ由来揮発性物質を利用した植物病害防除技術の開発
  3. シイタケおよびブナシメジ廃菌床から放出される 揮発性物質によるキャベツ黒すす病抑制効果
  4. きのこの香り成分および廃菌床を利用した病害防除資材の 開発
  5. 菌床堆肥の野菜畑への施用効果
  6. 植物-害 虫-天 敵三者間の相互作用について1
  7. 植物が発する「におい」で、害虫の天敵をおびき寄せる驚異の防除技術。
  8. 揮発性物質が媒介する植物間情報ネットワークのメカニズム | 京都大学生存圏研究所
  9. 植物の香りで特定の天敵を誘引し、 標的とした害虫の発生抑制に成功

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