牛由来のメタンガスを削減するためのさまざまな取り組み

牛由来のメタンガスを削減するためのさまざまな取り組み

地球温暖化の原因として挙げられるのは、工場や自動車などから排出される温暖化ガスだけではありません。近年、地球温暖化への影響の強さが指摘されるメタンガスは二酸化炭素の約25倍の温室効果があるとされており、世界の排出量の3割を農業分野が占めています。

そしてそのうち8割近くが牛に由来するとされています。

 

 

牛のげっぷに含まれるメタンガスを減らす取り組み

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牛の胃の中にはたくさんの細菌がいます。胃に棲むさまざまな細菌のおかげで、牛は一般的な動物が消化することのできない草などを分解でき、栄養を得ることができます。しかし胃の中の細菌による発酵で生じる水素が、メタンとなり、げっぷとして排出されます。

牛の胃の中にいる細菌の研究

日本の研究機関、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)では、牛の胃に存在する微生物を研究することで、メタンの排出が少ない牛の研究を進めています。農研機構は乳用牛の第一胃からメタンの発生抑制が期待できる新たな細菌(Prevotella属細菌)を発見しました。

第一胃では微生物によって飼料が分解・発酵します。この過程で、温室効果のあるメタンや牛のエネルギー源となるプロピオン酸という物質が発生します。プロピオン酸が多く作られるとメタンが抑えられるのですが、この新たな細菌はすでに知られているPrevotella属細菌よりもプロピオン酸の元となる物質を多く生成します。

メタンの発生抑制が期待できる細菌を別の牛の胃の中で増やしたり、この細菌を多く持つ牛を交配させたりすることで、ゲップに含まれるメタンの量を減らすことが期待されています。

また農研機構によると、牛などの反芻動物は飼料から摂取したエネルギーの2〜15%をメタンの生成に浪費します。プロピオン酸は牛のエネルギー源になりますが、メタンはエネルギー源になりません。この細菌の研究が進み、プロピオン酸を効率的に生成できるようになれば、より少ない飼料で牛を飼育できることにもつながり、生産性向上への貢献も期待されています。

牛のエサに関する研究

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デンマークのオーフス大学では、メタン生成を抑える性質がある物質に着目。オーストラリアに生育する「カギケノリ」と呼ばれる海藻に含まれるブロモホルムという物質を牛のエサに2%混ぜると、メタンの放出が最大98%抑えられます。牛が海藻を含むエサを好むのか、人体への発がん性が疑われるブロモホルムがどの程度肉や乳製品に移行するのかなど、安全性に関する研究とメタンを減らす効果に関する研究が進められています。

日本では北海道大学の研究により、カシューナッツの殻からとれたオイルを牛の胃液培養液に加えたところ、メタンが出ないことが分かりました。

同研究では、対象動物であるタイ原産の牛と水牛の各4頭ずつに、計8週間の摂食実験を実施しました。各4頭はキャッサバや大豆粕、そして稲わら(自給摂取量の90%)からなる現地調合濃厚飼料が与えられました。このエサは1日1回、決まった時間に与えられ、前半4週間は上記飼料を、続く4週間はカシューナッツの殻からとれたオイル(以下、オイル)を含む現地調合濃厚飼料を与えられました。

その結果、各飼育期間の最後の2日間に糞便を採取したところ、In vitro(試験管内などの人工的に構成された条件下、人為的にコントロールされた環境下)では、オイルを含む飼料を与えることでメタンが減少しました。

またオイルに含まれる成分が、メタンを生成する微生物を弱体化させることが分かっています。オイルを与えたことで、糞便中の微生物群衆が変化しました。

カシューナッツの殻という天然素材から取れる物質をエサに加えることで、メタン排出量が減らせることに期待が高まります。

畜産物を供給する側がメタン発生を抑制する取り組みを行うことに加えて、畜産物を需要する側の対策(2050年までに世界人口の50%が植物ベースの食事に移行するなど。このことは食品の総損失と廃棄物を50%削減する)も行われることで、メタン排出を大幅に削減できると考えられています。

とはいえ、単純に「畜産=悪いもの」とするのは避けたいところです。何より、畜産業は世界の食料システムの柱とも言える存在です。国際連合食糧農業機関(FAO)によると、畜産は世界の農業生産額の40%を占め、約13億人の生活と食料・栄養の確保を支えています。

持続可能な畜産業の継続のために、牛由来のメタンガスを削減する取り組みはまだまだ発展を見せそうです。

 

参考文献

  1. 牛げっぷ由来のメタン削減へ 乳牛の第1胃から細菌発見 栄養浪費も防ぐ 農研機構
  2. プレスリリース (研究成果) 乳用牛の胃から、メタン産生抑制効果が期待される新規の細菌種を発見
  3. 気候変動を逆転させる食料とは たとえば海藻やコオロギの有効活用 – BBCニュース
  4. 牛も脱炭素の時代! | NHK | ビジネス特集
  5. 厄介なガス、エサで減らす 環境重視の畜産めざす: 日本経済新聞
  6. Feeding cashew nut shell liquid decreases methane production from feces by altering fecal bacterial and archaeal communities in
  7. Agricultural methane emissions and the potential formitigation | Philosophical Transactions of the Royal Society A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences
  8. Moving Towards Sustainability: The Livestock Sector and the World Bank

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